トロントで起きたテロの現場(photo by gettyimages)
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凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題

テロにも発展。その名は「インセル」
アメリカで、「インセル」と呼ばれる一部の「非モテ」が過激化し、テロ事件を起こして社会問題となっている。興味深いのは、そんな彼らのなかにはトランプ支持者が多いということ。彼らのコンプレックスに満ちたメンタルや、「インセル 」という集団の由来を注意深く探っていくと、トランプを生んだアメリカという国の一側面が浮かび上がってくる。

続発する非モテたちの犯罪

今年の4月、カナダ・トロントの路上で、レンタカーが通行人に突っ込み、10名を殺害して多くに重軽傷を負わせるという事件が起こった。死者の多くは女性だった。

この種の攻撃からは、どうしてもイスラム過激派によるテロを想起してしまうわけだが、犯人は25歳のアレック・ミナッシアンという白人男性で、イスラム教との接点はおろか前科すらない人間だった。

ミナッシアンの事件では女性が犠牲となり、現場では献花が行われた(photo by gettyimages)

しかし驚くべきことに、彼はある種の過激思想によって突き動かされた、まごうことなきテロリストだったのである。問題は、その思想の中身だ。

事件後、ミナッシアンが書いたフェイスブックへの投稿が発見されたが、そこで彼は、以下のようなことを書いていた。

「インセル革命はすでに始まっている!我々はチャドやステイシーどもを全滅させる!最高紳士エリオット・ロジャー万歳!」

なんじゃこりゃ、というのが常識的な反応だと思うが、しかし実のところこの一文は、ミナッシアンやその同類が奉じている世界観をよく表現している。

まず、インセル(Incel)というのはInvoluntary celibateの略で、「非自発的禁欲」とでも訳せようか。ようするに、付き合う相手がいないので、不本意ながら性的に禁欲を強いられている、ということだ。そしてミナッシアンは、自分たちはインセルだ、と自己規定しているわけである。ちなみに、インセルの多くは若い白人男性の異性愛者だという。

インセルである彼らの敵が「チャドやステイシー」だ。これはインセルのコミュニティにおける隠語で、付き合う相手に不自由しない、モテるイケメンや美女を意味する。ただ外見が良いというだけではなくて、学歴や経済力、社会的地位の高さも加味された概念だ。

なお、チャドやステイシーほど性的に放縦ではないが、ちゃんとパートナーがいる「普通の」人々のことをインセルはノーマルならぬノーミーと呼び、やはり敵視している。

 

エリオット・ロジャーという男

そして、エリオット・ロジャーとは何者か。実は、インセルを標榜してテロを起こしたのはミナッシアンが最初ではなく、すでに北米では何件も同様の事件が発生している。これらの源流と目されるのが、2014年5月にカリフォルニア州で起こった大量殺人で、その犯人が22歳のエリオット・ロジャーという若者だった。

彼は6名を殺害し、多数を負傷させたあげく自殺したのだが、137ページにも及ぶ声明文とYouTubeの動画を遺した。その中で、ロジャーは自らをインセルと規定し、女性たちへの復讐を声高に謳っている(しかし、女性と付き合った経験は無かったようだ)。

ちなみに、「最高紳士(the supreme gentleman)」というのは元々はロジャーの自称で、今ではインセルお気に入りの自称ともなった。

ロジャーはRedditや4chanといった掲示板サイトにあったインセルのネット・コミュニティで活発に活動していたため、彼の事件はインセルという語を広めると共に、いわばインセルのシンボルとなった。「Going ER」(ER、すなわちエリオット・ロジャーをする)というのが、インセルを動機とする暴力を示す隠語になったくらいである。