画/おおさわゆう
医療・健康・食

外科医のヘンな職業病~焼き肉屋で闘志を燃やしてしまう理由とは

覆面ドクターのないしょ話 第21話
切る、剥がす、縫うといった技術を駆使する、手術を生業とする外科医は、職人でもある。それゆえ、彼らは技術に優れた職人を尊敬し、興味を抱く。次郎先生の場合、その興味は、特に料理人に向かうそうだ。手術の手技にも通じるある技術への興味が、どうしようもなく高じてしまったのは、絶品の肉を食わせる焼肉店でのことだった。

外科医は料理人の技にほれぼれする

「骨付きカルビ食べよっか!」


「やったーっ!」


骨付きカルビを注文したら、病院のスタッフ一同が大喜び。骨付きカルビは霜降りが美しく、甘くて柔らかくて美味い。

 

みんなにとっての関心事は、当然この旨い肉だ。だが、私にとっての関心事は別のところにある。

それは残った骨だ。


ここは東京・麻布にある焼肉店「○○の家」。

骨付きカルビを注文すると、店員さんが丁寧に焼いて、肉をはさみで切り分けてくれる。

残ったあばら骨はもう用がないかというとそうではない。その後、骨にくっ付いている膜(骨膜〈こつまく〉という)をはさみで上手に剥がして焼いてくれる。コリコリとした歯ごたえで、これまた珍味なのだ。

旨そうな骨付きカルビ。でも、次郎先生にとって大事なのは、骨の方(photo by istodk)

店員さんの巧みなハサミさばきを見ていたら、私の心の奥底で、何かがムラムラと燃え上ってきた。


「俺もできるようになりたい!」


外科医は手術を生業にしている。だから料理人の技を見るとほれぼれする。ごはんを食べに行って、私がビビビと感じ入ってしまうのは、次のような職人の技である。

①寿司店の大将の包丁さばきと握りの正確さ
②和食割烹での美しい盛り付け
③中華料理店での豪快な鍋使い
④洋食屋さんでトントンとフライパンを叩きながら美しく出来上がるオムレツ。

これらの職人技を見せられるとうっとりしてしまう。

街の中華料理店に入っても、技を見たいがために、私はカウンターに座って、大将がチャーハンを作る姿を眺めている。鍋とおたまがぶつかる音を聞き、踊るように舞い上がるチャーハンを見ながら、料理人の手際の良さに感動する。

「あの先生は手術が上手い」

そういう外科医の評判を聞くことがある。ではその「上手い」とは何が基準なのだろうか?

私が一番注目している点は「出血量」だ。出血が少ない手術をする外科医は手術が上手いといってよい。

胃の手術をするのに1リットル近く出血する場合もあれば、100 ミリリットルも出血させない外科医もいる。このレベルになるとまさにゴッド・ハンドだ。出血が少なければ患者さんへのダメージも少ない。出血量には細心の注意を払うよう、私も先輩から指導された。

私は美しいものが好きだ。だから手術も美しくありたいと思っている。「手術が上手いですね」と言われるよりも嬉しい言葉がある。それは、「先生の手術って美しいですね」、これだ!