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社会保障・雇用・労働

障害のある娘のために裁判所と闘い、命を落とした母親の無念

成年後見制度の深い闇

「お母さんが、死んじゃったよ」

「妻が急死したとき、娘は、いつものようにお菓子作りの作業場で働いていました。娘は障害者です。夕方、家に帰った娘に『今日、お母さんが死んじゃったよ』と話すと、娘は押し黙ったまま涙をポロリと流しました」

痛ましい出来事が起きてしまった。

6月8日、知的精神障害者の娘を持つ母親が、路上を歩いているときに心筋梗塞を起こし、急死したのだ。

私は、2017年9月6日の現代ビジネスで、この母娘のことを取り上げている。(参考:<障害者と家族からカネを奪う「悪質後見人」その卑劣 ~成年後見制度の深い闇 第5回>http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52743

亡くなったのは埼玉県在住の竹田房子さん(享年69・仮名:以下、家族の名前はすべて仮名です)。房子さんは夫の誠二さん(75歳)、一人娘の陽子さん(34歳)と仲睦まじく暮らしていた。

母親の房子さんは、娘・陽子さんのために、良かれと思い成年後見制度を利用したところ、予想もしない後見トラブルに次々に巻き込まれ、疲労困憊していた。

「成年後見制度を利用して良いことは一つもありません。不安と怒りが募って夜もよく眠れません。ストレスが溜まる一方で、このままではストレス死しそうです」

取材メモを読み返すと、房子さんは、私にそう話していた。亡くなる2日前も友人に、「成年後見制度のせいで寿命が縮む一方だ」と疲れた様子で語っていたそうだ。

私が房子さんと知り合ったのは昨年6月。「サンデー毎日」(2017年6月18日号)に私が書いた<成年後見制度の”落とし穴”>という記事を読んで、房子さんが連絡をくれたのがきっかけだった。それ以来、互いの自宅が近いこともあり、私は一家と親しく付き合うようになった。

 

突然、裁判所から届いた通知で「運命が暗転」

房子さんが陽子さんの成年後見人になったのは2012年6月。東日本大震災がきっかけだった。房子さんは私にこう話していた。

「もし今後、首都直下型地震が起きても、私が後見人についていれば、私の命のある間は、娘の生活を見守って財産も管理して増やしてあげられる。誰かに騙されて高額な商品を買わされても、私が代理になって取り返すこともできる。後見人に選任されてやれやれと思いました」

成年後見制度は、認知症などで判断能力が不十分な人の経済活動を手助けするために2000年にスタートした。

家庭裁判所が選んだ後見人が、被後見人(認知症の人など後見を受ける人のこと)の意思を尊重し、生活や健康状態に配慮しつつ、被後見人の代わりに(1)財産管理、(2)身上監護(医療介護の契約など)を行う。

房子さんは後見人として、娘を見守り、さいたま家裁から一度も問題を指摘されたことはなかった。

ところが後見人就任から5年経った昨年3月、突然、さいたま家裁から1通の連絡通知書が自宅に届いた。このときから一家の運命は暗転する。

それまで、房子さんは家裁から、上述の通り娘の陽子さんの財産を管理し、身上監護を代理する権限を与えられていた。

ところが通知書によると、家裁は、房子さんから財産管理の権限を剥奪し、代わりに、房子さんが名前も知らない弁護士を財産管理担当の後見人に選任したというのだ。

寝耳に水の事態に房子さん一家は驚愕した。房子さんは当時のことを、私にこう語っていた。

「家裁は、こちらの意見も聞かずに一方的に私から権限を取り上げて、有無を言わせませんでした。過去に財産管理を巡るトラブルを起こしたことも、家裁から問題を指摘されたことも一度もないので、納得できず、家裁に何度も問い合わせましたが『裁判官が決めたことだから』と門前払いでした」