武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長/Photo by Gettyimages
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武田が7兆円買収で手に入れる、シャイアー「パイプライン」の真価

「新薬」という大輪の花は咲くか
本日、定時株主総会を開く予定の武田薬品工業。武田の既存株主やOBの有志らでつくる「武田薬品の将来を考える会」は、「1兆円を超える企業買収は株主総会の事前決議を得る」とする定款変更を株主提案している。

約7兆円の超大型買収は果たして妥当だったのか? 米国の投資運用会社で働いた経験があり、『マネーの代理人たち』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏が、製薬業界特有の「パイプライン」をキーワードに解説する。

医薬品株投資のプロは「パイプライン」を見る

「BATMAN(バットマン)」、「JUPITER(木星)」に「DRAGON(ドラゴン)」。「AWESOME(アメリカ人がよく使うスラングで「すごいじゃん!」)」。

これって、いったい何の話だ? 門外漢のファンドマネジャーとして初めて製薬会社とのミーティングに出て、面食らったことがある。実は、薬の臨床試験のコードネームだった。

例えば「BATMAN」なら、アストラゼネカ社のBisphosphonate and Anastrozole Trial -Bone Maintenance Algorithm Assessment (ビスホスホネートとアナストロゾールの臨床試験ー骨組織のアルゴリズム評価) という具合に、長ったらしい物質名などの頭文字をゴロ合わせしたものだ。

製薬業界の特殊用語にもう一つ、「パイプライン」という言葉がある。石油や天然ガスの輸送管ではない。基礎研究から臨床試験を乗り越えて申請・承認されるまで、10年以上もかかる新薬開発のことだ。製薬会社の投資回収期間は極めて長く、不透明。巨大なスチールパイプよりも、壊れやすいガラスの試験管のイメージだろうか。

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株価を大きく動かすのも短期業績ではなく、「パイプライン」の治験データだ。開発中の新薬の競争力が、数年から10年先の製薬会社の業績や世界シェアを決定づけるからである。

命短し、「新薬」という花

製薬会社の経営は、多くの花の種(=化合物)をこの繊細な長い管に入れて育てる作業のようだ。開花(=新薬承認)時期も違えば、花の色や大きさ(=薬の種類や売上規模)も違う。花が咲くかどうかさえもわからない。

でも、売上利益という「花」を絶やしてはいけない。数年から10年先を読んでパイプラインを調整し、なんとか毎年毎年花を咲かせ、増やしていかなくてはならない。今咲いている花が新薬特許切れでもうじき枯れそうなら、それが枯れないうちに花が咲きそうな「株」をM&A(企業合併買収)で移植することも必要になる。

狙いをつけた化合物が新薬承認される「開花確率」は、わずか2万6000分の1 *日本製薬工業協会、2016年データ。年末ジャンボ宝くじの4等が当たるくじ運 *2017年は1万4000分の1 より、ずっと悪い。

300億円から1000億円という巨費を投じても、副作用懸念などで開発中止となる根腐れリスクの方が多いし、晴れて「ブロックバスター」(売上1000億円以上)が大きく花開いても、上市される頃には特許期間は10年も残っておらず、花の命は短い。特許切れになった途端に安いジェネリック薬がどっと入り込んでくる。

 

大阪の薬問屋からグローバル企業へ

そんな製薬業界で武田薬品工業(以後、武田)によるシャイアーの「7兆円買収」が話題を呼び、本日6月28日の株主総会の行方が注目されている。

一連の武田の動きも「パイプライン」を追うと理解しやすいし、その開発競争の中で武田という日本の代表企業が辿ってきた激しい変化も浮き彫りになる。

武田は18世紀に初代武田長兵衛が大阪道修町で薬の仲買商として独立して以来、240年近い社史を持つ老舗企業だ。もとは大阪商家のしきたりにより長子が歌舞伎役者のように先代の名跡を継ぐという典型的同族企業で、1974年までは「六代目武田長兵衛」氏が社長を務めていた。
  
その「純ドメ」企業がこの45年程度の間に、売上も人材も6、7割が海外という会社になったのだから、まさに日本のグローバル化の「実験」のようである。