不正・事件・犯罪

児童養護施設暮らしの9歳女児が...「秋田・長女絞殺事件」の深層

なぜこんなにも凄惨な事件が起きたのか
西牟田 靖 プロフィール

そして事件が起きる

施設の職員たちが愛実ちゃんを送り出したのは2016年6月17日(金曜)の午後だった。一時帰宅のため、タクシーで迎えに来たお母さんに愛実ちゃんは抱きつき、仲良く手を繋いだまま施設を出た。このとき、事件の兆候はまるで見られなかった。それから数日後のことだ。事件が発生したのは。

「本来なら、お母さんの家に2晩泊まった後の日曜夕方、施設に帰ってくるはずでした。ところが予定の19日午後6時を過ぎても帰ってこない。そのため午後8時半、9時半とお母さんのアパートまで担当の職員に行ってもらい、様子を見てきてもらいました。

中に灯りはついておらず、呼び鈴を鳴らしても反応はない。携帯電話を鳴らしても、『電源が入っていない』というアナウンスが流れるだけだったそうです。

翌朝、すぐに児童相談所に連絡して、児童相談所の職員とともにアパートを訪れました。しかし、やはり応答はなし。そこで昼に警察署に行方不明届を提出しました」

20日午後4時すぎに、アパートに踏み込んだ警察署員が、すでに亡くなっている愛実ちゃんと、そのそばで意識不明の状態で倒れている母親の姿を発見した。そのとき、愛実ちゃんはタオルケットにくるまれ、ベッドの上で冷たくなっていた。その隣で意識を失って倒れている母親の腹には数ヵ所、刺し傷があった。

午後4時を少しすぎたころ、施設に電話が鳴り響いた。

<た、大変なことになってる。もうダメだったみたい――。>

「現場を見に行ってくれていた主任保育士が、大泣きしながら電話をかけてきました。その電話を聞いて、いてもたってもいられず、すぐに現場まで駆けつけました。すると現場周辺はすでに大騒動。パトカーや救急車が建物を覆うようにして停まっていました。

夕方のニュースで報道されたということもあり、事件のことはたちまち施設内に知れ渡りました。子供だけでなく職員一同皆ショックを受けてしまって…。泣き崩れました」

 

施設では翌7月の夏休み時期に愛実ちゃんのお別れ会を行っている。

「一番広い部屋を祭壇にして、職員と子供たち、みんなで愛実ちゃんとお別れをしました。仲良くしていた子供何人かが弔辞を読んだ後、みんなで玄関先のベンチに移動しました。そしてそのベンチにシャボン玉のセットを置いたり、職員たちが『めぐちゃんにシャボン玉を見せてあげて』って言うのを合図に、子供たちがシャボン玉を飛ばしたりしました」

玄関外のベンチの前に座りながらシャボン玉を飛ばすのが愛実ちゃんは大好きだった。

――ここでひとつ違う質問をさせてください。事件発覚直後、院長や施設側は事件をどう見立てていたのですか?

「愛実ちゃんの事件が起こったのと同じ月、当施設の男性職員が県青少年健全育成条例違反(淫行)の疑いで逮捕されました。その直後の愛実ちゃんの事件でした。だから『職員が逮捕されたことで、お母さんの精神が不安定になり、こんなことになったんじゃないか……』と自責の念が浮かびました」

ところがだ。事件から1年後の2017年5月末に刑事裁判の判決が下されたことで、施設側の見立てが違っていたことが判明する。裁判を傍聴した院長はその場で、母親の動機について本当のところを知ることになった。

「裁判を傍聴して驚きました。まず、彼女が私たちに話していたことの多くは、ウソ…妄想に基づくものであったことがわかったのです」

――妄想とは?

「愛実ちゃんのお母さんが話す、お父さんやお祖父さんについての情報。そこにはかなり嘘がまじっていました。『元夫はDV夫でストーカー』というお母さんの言葉にしても、被害届の内容にしても、どうやら妄想が膨らんだことによる嘘でした。被害届を確認したと申しましたが、あれも全く違っていました。確かにお母さんは被害届を出していましたが、父親が害を加えた、という実態がなかったのです」