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米朝会談 「合意文書」はこう読めばすべてが理解できる

国際政治学者が分析する
篠田 英朗 プロフィール

「取引」で進む「朝鮮半島の完全な非核化」

第三の合意項目が、「朝鮮半島の完全な非核化(complete denuclearization of the Korean Peninsula)」である。

この項目の文言が「CVID(complete, verifiable, and irreversible denuclearization)」でなかったこと、非核化の具体的な工程が示されなかったことから、落胆する者もいるようだ。

実際、この表現は、使い古されたものであり、新味はない。具体性もない。工程表もない。

したがって、万が一、今回の合意文書だけで経済制裁が解除されるとなったら、それは性急で危険な措置だということになるだろう。しかし制裁は継続する、とトランプ大統領は明言している。

制裁を維持しながら、詳細を詰める交渉が実務者協議で進められるということであれば、その協議の行方を見極めるしかない。

 

それでは会談で何が達成されたのか。

この第三の合意項目では、「朝鮮半島の完全な非核化」にコミットしているのは、北朝鮮だけだという言い方になっている。米国はコミットしていない。一方的なものである。代わりに、米国は、非核化の環境整備に、コミットしている。

5月24日の書簡で一度会談がキャンセルになりかけたのは、ボルトン国会安全保障問題担当大統領補佐官が「リビア方式」(すべての核放棄が完了してから制裁を解除)について口にしたにからだったが、北朝鮮が「リビア方式」に拒否反応を持っていることはわかっている。北朝鮮が、リビア方式ではない方法で、非核化を進める。

つまり、会談では、段階的に、「朝鮮半島における平和体制」と歩調をあわせて、「朝鮮半島の完全な非核化」を進める、という「取引」の基本構図が確認された。この「取引」が妥当であったかどうかが、会談の歴史的評価を決めるポイントだ。

〔PHOTO〕gettyimages

「取引」の具体化と日本の取るべき態度

今回の米朝会談の基本構図は、「CVID」と「体制保証」をめぐる「取引」が、話し合われた。ただしそれらは、「朝鮮半島の完全な非核化」と、「朝鮮半島における平和体制」の構築、という言い方に変更されて、合意された。

その意味は、トランプ大統領は、「CVID」の報酬としては「体制保証」を提供しない、しかしそれにもかかわらず、金正恩氏は「CVID」に見合う「体制保証」を期待する、ということだ。

この「取引」を前にして、日本の立ち位置は、どうなるのか。日本は以前の「六者協議」の当事者だった。

しかし、今後の朝鮮半島の終結を含みこんだ「朝鮮半島における平和体制」の構築には、ロシアとともに、直接的には加わらない。

ただしロシアと異なるのは、拉致問題の解決を目指し、やはり別途、金正恩氏と交渉をしたい意図を持っている点である。

微妙な立ち位置だと言わざるを得ない。だが見取り図は、はっきりしている。「朝鮮半島の完全な非核化」の進展を注視し、「朝鮮半島における平和体制」を推進する仕方で、拉致問題の解決と、日本の関与を、「取引」していくということだ。

米国による武力行使の可能性は、大きく減退した。しかし、制裁は続く。「取引」の基本構図は設定された。ただし、具体的な措置は何も決まっていない。日本は繰り返し当事者から言及される。ところが、四者協議には入らない。

今、問われているのは、この所与の条件の中で、「朝鮮半島における平和体制」の構築への貢献と、「非核化」及び拉致問題の解決を「取引」していくための構想力である。

今回の米朝会談で決まった具体的措置は、基本的に何もない。だが「取引」の基本構図は、すでに設定された。具体案を厳しく要求し、精査していく作業は、必要だ。だが基本構図を疑うような態度を見せることは、賢明ではないだろう。

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