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米朝会談 「合意文書」はこう読めばすべてが理解できる

国際政治学者が分析する
篠田 英朗 プロフィール

北朝鮮側から見てみよう。

「体制保証」の要求は、冷戦時代の後ろ盾を失い、経済的にも後塵を拝した北朝鮮が、金王朝体制という特異な政治体制を抱えながら、命を賭して主張していることである。単なるリップサービスでは物足りない。

そもそも北朝鮮はすでに核開発に多大な投資をしている。それに見合う実質的な内容を伴った「体制保証」でなければ、核兵器を保有し続けたほうが合理的だ、ということになる。

つまり本来、「非核化」は、そう簡単に安請け合いで「取引」材料にしてしまってはいけない高価な品物であった。

一見したところ、二つの要件を同時に満たす作業は、著しく困難であるように感じられる。しかし、この程度の困難は、「取引」に異様なこだわりを見せるトランプ大統領にしてみれば、ビジネスチャンスのように見えるものかもしれない。

〔PHOTO〕gettyimages

「取引」で進む「朝鮮半島における平和体制」の構築

交渉術の基本は、自分の利益と相手の利益の相違点を見極めながら、重なり合う領域を探し出し、作り出し、確認していくことだ。

今回の米朝会談の結果として署名された「合意文書」は、そのような考え方が凝縮された内容である。

「合意文書」では冒頭の導入段落のところで、中核的な文章がある。「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証(security guarantees)を提供することにコミットし、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化(complete denuclearization of the Korean peninsula)への強固でゆるぎないコミットメントを再確認する」、という一文である。

今回の米朝会談の内容は、この一文で完全に要約されると言ってよい。合意された四項目の中核である二番目と三番目の合意項目は、この基本構図の反映だ。

 

第二の項目は、「朝鮮半島における持続的で安定した平和体制(a lasting and stable peace regime on the Korean Peninsula)」を構築するために、米国と北朝鮮が努力していくことが謳われている。

言うまでもなく、あくまでも体制が保証されるのが、金王朝の北朝鮮ではなく、「朝鮮半島」の平和であることが、一つの特徴である。

4月27日の南北首脳会談の際の板門店宣言でも「朝鮮半島における恒久的で強固な平和体制(a permanent and solid peace regime on the Korean Peninsula)」という概念が用いられていた。今回の米朝会談は、この枠組みを確認する作業が行われたのだと言える。

板門店宣言では、南北朝鮮と米国の三者協議、及び中国を加えた四者協議の必要性が訴えられていた。これらの朝鮮戦争の当事者で、「朝鮮半島における平和体制」を構築して、戦争の終結を行うというビジョンになっていた。

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