防衛・安全保障 国際・外交 世界経済 日本 アメリカ 韓国 北朝鮮 シンガポール

米朝会談直前のシンガポールを包む「3つの熱気」

それでも日本はカヤの外なのか…
近藤 大介 プロフィール

シンガポールは一種の「戦争状態」

そこで、何とかしていくばくかでも「両主役」の「息吹き」を感じたく思い、まずはトランプ大統領が宿泊しているシャングリラ・ホテルへ、足を運んでみた。

ハードロックカフェの巨大な看板を折れて、細長いアンダーソンロードを進むと、最初の検問に引っかかった。銃を抱えたシンガポール軍の軍人たちに、「どこへ行くのだ」と囲まれる。

「この道の先には、トランプ大統領が泊まっているシャングリラ・ホテルしかないだろう」と言いたくなるが、そこは作り笑いを浮かべて、シンガポール政府発行の記者証を翳してみた。すると、すんなり通してくれた。

その後、2つ目、3つ目の検問があり、バリケードが敷かれて車両による自爆テロを防止していた。それでもなぜか、シャングリラ・ホテルの本館まで行けてしまった。

中は意外に、警備が薄いと思ったら、トランプ大統領がいるのは、裏手の鬱蒼と茂る杜の中にあるコテージのようだった。

 

このように、トランプ大統領には近づけなかったが、アメリカ側の「第2の主役」であるポンぺオ国務長官には、声をかけた。しかも、一度ならず2度もだ。

11日夕方5時半から、マリオット・ホテルで、ポンぺオ国務長官の内々の会見、というより懇談があった。ホワイトハウス付きの気心の知れた記者だけを集めて、ブリーフィングを行ったのだ。

私は一応、トライはしてみたが、あっさり締め出された。そのため、入口で待つことにした。そして待つこと30分ほど、機関銃を捧げた軍人たちが周囲を固めると、黒塗りの車が到着して、中からポンぺオ長官が降りてきた。

私は「ポンぺお長官、会談の準備はうまくいっているんですか?」と声を張り上げて聞いた。するとポンぺお長官は、私の方をチラッと横目で見ただけで、無言で通り過ぎていった。

このブリーフィングは30分弱で終わり、再び出てきた時、「ポンぺオ長官、核放棄は絶対にCVID(完全で検証可能、かつ不可逆的な解体)でないとダメなんですか?」と聞いてみた。すると今度は、片目だけ私の方を見て、そのまま無言で車に乗り込んでいった。

ポンぺオ長官はなぜ、わざわざ米朝首脳会談前日の夕刻に、親しい記者だけを集めて、このような「小イベント」を行ったのか。それはポンペオ長官が強調していた二つのセリフにはっきり表れている。

「われわれが唯一、受け入れることができるのは、CVIDだけだ」

「北朝鮮が非核化を実現して初めて、金正恩体制の安全保障が与えられる」

ポンぺオ長官は、金正恩委員長がシンガポールに到着したことで、「退路は断たれた」と見て、俄然強気に出だしたのである。

このポンペオ発言に先立つこと数時間前、午前10時から、リッツカールトン・ホテルで、米朝実務者同士の詰めの会談が行われていた。アメリカ側代表はソン・キム駐フィリピン大使で、北朝鮮側代表は、崔善姫外務次官である。

両者は2時間近く談判した後、苦渋の表情を浮かべながら立ち去った。その後、シンガポールで「金正恩委員長がドタキャンして帰国する」との噂が、まことしやかに飛び交った。

そんな北朝鮮側にも近づこうと、トランプ大統領が宿泊しているシャングリラ・ホテルから600mしか離れていないセントレジス・ホテルへと向かった。

だが、こちらの方がよほど厳しかった。ホテルの300mくらい手前からバリケードが敷かれていて、「北朝鮮の宿泊者以外は立ち入り禁止」だという。

ということは、セントレジス・ホテルは、北朝鮮関係者の貸し切り状態なのだ。アメリカ資本のホテルで、北京のセントレジス・ホテルには、昨年11月にトランプ大統領が泊まったというのに、シンガポールでは北朝鮮の「戦線本部」となっている。そして、やはりシンガポール政府が経費を負担しているのだと、踵を返しながら確信した。

翌日の首脳会談の会場となる、シンガポールの外島、セントーサ島のカペラホテルにも、タクシーを走らせて行ってみた。

タクシー運転手は、「セントーサ島には首脳会談が終わるまで入れない」と言ったが、「タクシー料金を積み増すから」と無理に頼んで向かった。そうしたら、あっさり島に渡る道路を渡れた。その後、島内で迷ったりしたが、何とかカペラホテルの前までたどり着いた。

だが、そこまでだった。再びシンガポール軍によって遮断されてしまった。人口650万くらいの国家で、いったい何人の軍人がいるのか知らないが、きっと総動員されているのだろう。つまりシンガポールにとってみれば、一種の「戦争状態」でもあるのだ。

新メディア「現代新書」OPEN!