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新幹線殺傷事件「発達障害と犯罪」を強調した報道への大きな違和感

もっと光を当てるべきことがあるだろう
原田 隆之 プロフィール

「容疑者自閉症?」という報道があり…

事件を受けて、毎日新聞のデジタル版は翌日「新幹線殺傷:容疑者自閉症?「旅に出る」と1月自宅出る」との見出しで事件を報じた。

その後見出しからは「自閉症」の語句が、本文からは「自閉症と診断され、昨年2~3月には岡崎市内の病院に入院していた」という箇所が削除された。

そして翌日、毎日新聞は、ツイッター上で「発達障害について不適切な記載をしてしまいました」と謝罪した。

また、夜のニュース番組『Mr.サンデー』では、容疑者の生育歴を詳しく紹介するなかで、容疑者が「発達障害」の診断を受けていたことを何度も繰り返し報じていた。

番組のなかでは、「発達障害の人が皆、犯罪をするわけではない」「そういう決めつけはよくない」と一応の前置きをしていたが、それが吹き飛んでしまうほど、「発達障害」を前面に押し出し、専門家なる者が解説を加えていた。

 

発達障害と犯罪

容疑者が何らかの診断を受けていたこと、精神科入院歴があることなどが事実だとしても、それは容疑者の有する特性の1つにすぎない。

ほかにも数多くの特性があるはずであるが、彼の一面だけをとらえて殊更に強調して報道することに何の意味があるのだろうか。

不可解な事件が起こると、誰もが不安になる。そして、その「答え」を精神障害に求めて、一時の安心を得ようという安易な心理がそこには透けて見える。

しかし、もしそれが誤った「答え」であれば、事件の解明には何も役立たないし、精神障害に対するいわれのない偏見を増長することにもつながる。

これまで積み重ねられてきた犯罪心理学の膨大な研究データは、発達障害を含む精神障害と犯罪・非行との関連を否定している1。これは明確な事実である。メディアが強調するような精神障害と犯罪との関連は、事実に反する「神話」にすぎない。

世の中には精神障害や発達障害を有する多くの人々がいるが、その大多数は犯罪とは無縁である。もちろん、犯罪に赴く者も少数であるが存在する。一方、いわゆる「健常者」も大多数は犯罪とは無縁であるが、少数であるが犯罪行為を行う者がいる。

つまり、どちらの集団にも、犯罪とは無縁の大多数の人々と、犯罪に加担する少数の者がいる点では同じである。

このことをデータで確認してみると、犯罪白書によれば、平成27年度の刑法犯の検挙人員総数は、約24万人であるのに対し、そのうちの精神障害者数は約4,000人にすぎない(発達障害のみのデータはないので、精神障害者全体を見るしかない)2

厚生労働省の患者調査によれば、わが国の精神障害者は約390万人いる3。また、同じく厚生労働省のデータによれば、平成26年度に医療機関を受診した発達障害者は、約19.5万人である4

これらの数字をもとに単純に計算すると、一般の人が犯罪を犯す割合(精神障害者を除いたわが国の人口全体のうち、精神障害のない刑法犯の割合)は約0.2%であるのに対し、精神障害者が犯罪を犯す割合(精神障害者全体のうち、精神障害刑法犯の割合)は、約0.1%にすぎない。

さらにわが国の人口全体に占める精神障害者は、約3.1%であるのに対し、刑法犯全体に占める精神障害者は、約1.7%である。

つまり、精神障害者よりも、「健常者」のほうが犯罪に至る割合がずっと多いということである。

このように、これらの単純な事実を見ただけで、精神障害や発達障害を犯罪の「原因」であると決めつけることが正しくないことがわかるだろう。

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