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「もうおねがいゆるして…」目黒5歳虐待死はなぜ防げなかったのか

二度とこのようなことが起きないために
森山 誉恵 プロフィール

なぜ児童相談所は家庭訪問を強化しなかったのか

今回の事件でのもう一つの疑問は、「親が結愛ちゃんに会わせることを拒否した時点で、なぜもっと頻繁に家庭訪問をして保護にもっていけなかったのか」という点です。

平成11年から平成27年にかけて、児童虐待相談対応件数は約8.9倍増えたのに対して、児童相談所と児童福祉司の数は約2.4倍にしか増えていません。

児童福祉司とは、虐待の通報にあった家庭に訪問したり、近隣の住民などのヒアリングを介して、虐待保護の緊急度や必要性などを判断したりする立場にいるものです。

一つの児童相談所や、児童福祉司が対応するケースは単純に考えて4倍程度に膨れ上がったことになりました。

東京の八王子児童相談所のホームページによると、児童福祉司一人で担当するケースは平均80〜100件だといいます。

児童虐待防止制度改正後の運用実態の把握・課題整理及び制度のあり方に関する調査研究」(平成18年、日本子ども家庭総合研究所)によれば、児童虐待以外を含めた児童福祉司一人当たりの受持ち件数は平均107件と言われています。

1ヵ月に20日勤務すると考えて、1家庭に1日(約8時間)割くとしても、平均して5ヵ月に1回しか1家庭に時間を割くことができません。しかも、1家庭に8時間というのは、近隣のヒアリングから親との面談、ケース会議などを十分に行うにはあまりにも少ない時間です。

そして、今回のように素人から見ても緊急度を上げて、もう一度訪問した方が良い案件についても後回しになってしまい、取り返しのつかない状況になってしまいかねない構造的問題もあります。

より手厚い児童福祉司の配置、そのための児童福祉予算の増加などは、このような痛ましい事件を防ぐためには必要不可欠となっているのです。

 

私たちにできることはあるのか

では、このような事件を防ぐために、私たちはなにができるのでしょうか。

虐待の背景には、親本人が困っていたり、孤立したケースが多く見受けられます。

貧困や、鬱などの精神障害、虐待を受けて育ってきた生育歴。また、社会保障制度へのリテラシーも低く生活保護や困窮世帯が受けられる制度を十分に理解していなかったり、だれかに頼ることがうまくできなかったりするケースも少なくありません。

もし困っている人が近くにいたら、その人を責めるのではなく、「頼りたい」と思えるひとりになり、あたたかく見守り、できることがあれば手を差し伸べ続けることが、今の社会では最も難しいことかもしれませんが、最も大切なことでもあると感じています。

しかし、地域間格差や教育格差が拡がっている中で、自分の地域やコミュニティには自分自身と境遇が似ている人が多く、身近に困っている人がいない・見つからないこともあるかもしれません。そんな時にできることを紹介します。

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