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霞が関「証券市場の番人・セック」知られざる25年目の挫折

カリスマトップが去って、組織が劣化
現代ビジネス編集部 プロフィール

「鬼平」がやってきた

霞が関で縄張りを広げる鉄則は、とにかく実績を出し、数字を上げることに尽きる。実際、セックは右肩上がりの人員に対比させるように実績を重ねてきた。検察庁への告発は192件(18年3月末現在)に及び、インサイダー取引から粉飾決算、偽計取引、相場操縦まで証券市場にのさばる「悪」を摘発し、摘発能力の劣化に苦しむ検察庁を支える「ドブ浚い」に徹してきた。

その黄金期を牽引したのが、2016年12月まで3期10年近くにわたりセックを率いた「鬼平」こと、佐渡賢一委員長だ。

 

東京地検特捜部時代にリクルート事件や東京佐川急便事件など大型経済事件を担当した佐渡氏は、「証券取引法の佐渡」と言われるほど証券犯罪に強く、「委員長に就任後も、みずからセックに出向してきた検事たちに事件の筋読みを指導した」(全国紙社会部記者)という事件の神様的存在だ。検察側と捜査方針で意見が対立すれば、検察庁に圧力をかけて膠着状態を打破したことはもはや伝説にすらなっている。

そんな佐渡体制下の告発件数は90件近くに及び、セックが四半世紀かけて告発した全件数の約半分を占め、その黄金期の隆盛ぶりがうかがえるが、佐渡体制の真骨頂はむしろ立証のハードルが低く、迅速に対応できる行政処分の課徴金勧告を積極適用したことにある。

東芝をめぐる攻防

「告発事案になるまで放置していたらだめだ。むしろ、小さな芽を摘み取ることにこそセックの本当の役割がある」。職員や出入りの記者にこう語るのが口癖だったほど、佐渡氏の課徴金勧告へのこだわりは強かった。実際、セックの勧告に基づく金融庁の課徴金納付命令は15年度に48件、16年度にも49件あり、「小さなインサイダー取引も見逃さない」とのメッセージを市場に送り続けた。

その対象者は弁護士や公認会計士などのプロフェッショナルから、未公開情報に接するメディア関係者までも細大漏らさず摘発。海外の機関投資家が恒常的に手を染めていた公募増資によるインサイダー取引や、自動プログラミングによるアルゴリズム取引など最先端の動きにもメスを入れた。中国人が主体となる取引では、中国語でキーワード検索ができるプログラムを部下に作らせ、膨大なメール情報の中から犯罪要件に抵触する言葉を拾い出し、告発にこぎつけたこともあった。

「不正取引で儲けた札束を数えているヤツの背中をたたいて、『そのカネはどうしたのか』と問いただせ」。佐渡氏は部下たちにこう発破をかけ、スピード重視の摘発を強調したという。

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最後は東芝による巨額粉飾疑惑の摘発にセックの精鋭をほとんど投入して徹底的に調査したが、摘発に消極的な検察庁との対立が膠着状態に陥り、立件にこぎ着けることはできなかった。その願いを託された後任の元広島高検検事長、長谷川充弘氏の新体制下でも東芝案件の検察庁への説得工作は続けられたが結局、不調に終わったとされる。

そして、佐渡なきあとのセックは低迷時期に突入することになる。

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