金融・投資・マーケット

粉飾決算をプログラムで見抜け!「伝説の会計士」の挑戦

その名も「フロード・シューター」
藤岡 雅 プロフィール

「粉飾の動機」を探る意味

29億2900万円。これはNTTが2016年に支払った「監査報酬」である。細野氏が上場企業の上位100社の監査報酬を調べたところ、平均3億7400万円が監査法人に支払われていた(18年2月20日現在)。長らく指摘されてきたことだが、監査法人が企業からこれだけの報酬をもらっている限り、監査法人が企業の意に反して粉飾決算を指摘することは、非常に難しい。

「私は過去に粉飾が明らかになった企業を分析してきたが、粉飾決算の前の年、あるいは2年前には財務諸表に明明白白と、粉飾決算の影が現れていた。その決算書に監査法人は適正意見を出してしまっているのです。みすず監査法人は2度の粉飾で解散に追い込まれたのに、その後も監査法人はオリンパスや東芝の粉飾決算を指摘することはできなかった。当然でしょう。監査法人は企業から年間3億円もの報酬をもらっているのですから。

この監査制度の限界には会計士の多くが、気が付いている。監査法人で適正意見を拒否したらどうなるかを、私自身、何度も目撃してきた。次の日にはクライアントから強烈な抗議が来て、監査法人のトップ以下、幹部全員がクライアントに謝罪に行く。監査法人をいくら叩いても、顧客に粉飾を指摘するなど、どだい無理な話なのです。だから独立した第3者が粉飾を見抜くしかない」

 

監査法人の問題は世界でも共通の課題だが、欧米には独立した第3者による財務分析がマーケットを形成している。彼らは機関投資家やステークホルダーを相手にその分析結果を販売し、生計を立てているが、細野氏は同様の手法を日本にもたらそうとしているのだ。
「日本では誰もやらないから私がその道筋をつけようと思ったのです。フロード・シューターは現在、鋭意、精度を高める改良を加えている。完成すれば金融庁が提供している電子開示システム「エディネット」から、すべての上場企業の財務諸表分析がわずか20秒で完了するようになる。

ゆくゆくは人工知能(AI)による分析で、粉飾の動機を指摘するレポートも作成できるようになる。それにはまだ時間がかかりますが、粉飾には定型化できるパターンがある。必ずAIが粉飾を見抜き、アラートを鳴らす日が来る。

粉飾は「故意犯」。この犯意を見抜けないことで司法は立件を断念したり、罪を立証できずに来た。しかし、粉飾の犯意は必ず決算書に現れていると私は考えています。AI化の意義は、経営者は決して人を欺けなくなるということ。その願いをフロード・シューターという名前に込めました」

それは何も不祥事をあら捜しすることではない。

「とくに経営者には自身の企業の財務諸表が、どの程度の危険度なのかを知ることの有効性を知ってほしい。フロード・シューターの評価が『注意』の段階であれば、企業は引き返すことができるからです」

課題の多い監査制度に一石を投じることになりそうだ。

細野祐二氏:53年生まれ、75年、早稲田大学政経学部卒。82年3月、公認会計士登録。KPMG日本およびロンドンで会計監査とコンサルタント業務に従事した後、04年3月、キャッツ株価操縦事件に絡み、有価証券虚偽記載罪で逮捕・起訴される。一貫して容疑を否認し、無罪を主張するも10年、最高裁で上告棄却。懲役2年、執行猶予4年の刑が確定し、公認会計士登録抹消。著書に『公認会計士vs特捜検察』『法廷会計学vs粉飾決算』『司法に経済犯罪はさばけるか』『粉飾決算vs会計基準』がある。 公式HP:https://yuji-hosono.com/
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