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粉飾決算をプログラムで見抜け!「伝説の会計士」の挑戦

その名も「フロード・シューター」
藤岡 雅 プロフィール

粉飾を見破る方法

フロード・シューターが下す評価のポイントを示しておこう。この評価は企業経営の良し悪しを見るのではない。あくまで「財務諸表の危険度」を探っているのである。よって評価は減点方式。評価項目は78あり、過去、細野氏が行い、粉飾を見破ってきた企業分析の手法に基づいている。

細野氏によれば近年の最先端の粉飾決算分析は「キャッシュフロー分析」に重きを置かれており、78項目もキャッシュフローの評価に多くの配点が割かれている。仮に損益計算書で利益が計上されていても、現金収入が伴っていなければ、その歪みは必ず売掛金や在庫などの増加として現れる。こうした危険な兆候がないか、78の評価項目に基づいて直近5期分の有価証券報告書から分析するのである。

配点の最高はマイナス455点。最低は0点ということになる。それによって以下の評価を下す。

0点からマイナス9点=「安全」
マイナス10点からマイナス20点=「準安全」
マイナス21点からマイナス40点=「注意」
マイナス41点からマイナス70点=「警戒」
マイナス71点からマイナス455点=「危険」

言わずもがなだが「警戒」「危険」の評価は、その企業を監査する会計士たちにとって緊張を強いられる領域であることを示している。

細野氏は現在、直近の決算をもとに「フロード・シューター」を使って解析を進めている。これまでに分析が完了したのは、上場企業約300社。随時、レポートとして販売しているが、決算期によってこの評価には変化が現れる。一時期は「警戒」と評価されても、その後の評価が改善することもある。

またその逆もしかりだが、いずれにせよ厳しい評価が下される企業は、財務諸表に対して非常に高いリスクを背負っているのは間違いなさそうだ。

 

実際に過去に粉飾決算や経営危機が明らかになった企業の、発覚以前の財務諸表を「フロード・シューター」で分析してみれば、「警戒」や「危険」を示すことが多かった。11年12月に刑事事件に発展したオリンパス事件は、11年3月期決算を分析すると「危険」との評価を下した。また15年8月に課徴金処分を受けた東芝の15年3月期決算を分析すればやはり「危険」と評価されるのである。

細野氏は、「警戒」や「危険」と評価された企業をさらに読み解けば「粉飾に繋がる動機の存在が浮かび上がってくる」と語る。

「たとえば営業キャッシュフローと当期純利益を比べれば、多くの企業が営業キャッシュフローに対して半分以下の純利益となるのがふつう。実際にフロード・シューターで上場大手100社の5年分の財務諸表を分析しても、営業キャッシュフローから企業が純利益と認識しているのは平均44%でした(会計利益認識率)。ところが中には100%を超えている企業がある。

営業キャッシュフローよりも利益が上回っているということは、現金の裏付けのない利益があることを示している。会計基準には含み損益の計上が認められており、たとえば企業買収の際に発生する「のれん」は、買収額と被買収企業の簿価を相殺した含み益だが、これは裏付けのない〝作文″となることが多い。

こうした含み益を過剰に評価しようという行動が、キャッシュフローを超える裏付けのない『発生主義未実現利益』として現れてくる。ここに経営者の粉飾をやりたいという「動機の強さ」が示されていると私は考えているわけです。

というのはフロード・シューターが『危険』『警戒』と判定した企業がなぜこのような結果になったのかを読み解けば、必ず粉飾に繋がるつじつまのあう筋書ができてしまうから。

たとえば金融機関との融資条項に資金引き揚げの条件が提示されている。あるいは株主に対して無理な約束をしてしまっている、などです。つまり、いまこの時点で原則に従って会計処理をすると、企業に深刻なダメージをもたらしてしまう状態に追い込まれているわけです。言い換えれば経営者が『粉飾の魔の手』に誘われていく様がありありと浮かび上がってくる。非常に危険な状態です」

細野氏がフロード・シューターを使って分析した300社のうち、「警戒」に分類された企業は13社、「危険」に分類された企業は9社あった。この「危険」には近年巨額のM&Aを繰り返し、財務諸表に多額の「のれん」を計上するソフトバンクGや電通といった著名企業や、復興需要や五輪需要で業績を伸ばす一方で資材費や人件費の高騰に苦しむ中堅ゼネコンが入っている。いずれも裏付に乏しい利益を計上し、フロード・シューターに「財務諸表危険度」が増していると判断されたわけだ。

「警戒」や「危険」とされた中には細野氏の見解と異なると反論する企業もあるだろう。ただし細野氏は会計士の本分を説くようにこう語るのである。

「会計には『保守主義の原則』がある。予想される損失は取り込むが、予想される利益を取り込んではいけない。これは会計の基本中の基本であり、複式簿記700年の歴史に裏打ちされた人類の英知です。ところが近年、この原則が重んじられなくなってしまった。その結果、生じているのは、極めて危険度の高い財務運営なのです。こうなってしまったのは、現在の問題の多い監査制度や、それに甘んじる会計士に責任がある」

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