企業・経営

シリコンバレーと深センを回って判明「PDCAが日本の病の原因だ」

君たちは「決められない病」の患者か?
井上 久男 プロフィール

「D(実行)」から入ってみなはれ

しかし、時代の先行きが不透明な時代、すなわち「正しい解」が何か分からない時代にPDCAサイクルにこだわり過ぎると、物事が先に進まなくなってしまう。そもそも先が読めないのだから、その時点で緻密な計画の立てようもないからだ。

そこを日本の企業は、「Pづくり」にこだわり過ぎて、社内調整に時間を浪費しているように見えてしまう。そして、綿密に作った計画をようやく実行に移そうとしても、時代の流れが速いので、計画自体が陳腐化してしまう。

要は、先が見通せない時代には、誰かがリスクを取ってやってみるしかない。しかし日本企業では、無意味なコンプライアンス強化や成功体験への安住なども影響して、社内の基準やルールに合致しないことには挑戦しづらい風土が少なからずある。その基準やルール自体が時代遅れになっているかもしれないのに、だ。

 

現在は、「非連続のイノベーションの時代」とも言われる。これは端的に言えば、製品開発などの面において、過去の成功体験に安住していてはヒット商品は生まれないということである。もっと過激に言うと、「今日の勝者」があっという間に「明日の敗者」になってしまいかねないということでもある。

こうした現状の中では、平均値的なマーケティングデータが通用せず、何が売れるか分からない。売れる製品・サービスの誕生プロセスでは、共感、ストーリー性、ユニークさ、ハードとしての価値のみならず使用することで得られる社会的な意義など、複雑な要素が絡んでいる。こうした分野は事前調査で把握しづらい。

そもそも、これまでにないような新しいビジネスモデルや製品・サービスを創出する仕事に「標準(S)」はないのだから、PDCAサイクルを回しても意味がない。

まずは、やってみて(D)、確認と軌道修正(CとA)をしながら、大きな方向性が見えたところで、初めて計画(P)が立てられるのではないか。何が正解か分からない時代に、あまり理屈をこねて計画を立てても、成功するか否かは分からないのだから。

まずは小さな実行から踏み出して、軌道修正しながら状況によっては撤退の判断を素早く行い、可能性があると思えば、大きな構想を描いてさらに一歩踏み出していくという発想が重要だろう。PDCAサイクルへのこだわり過ぎは、新たなビジネス創出の阻害要因になりかねない。

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では、日本人は、こうした新しいビジネスを創出することが苦手なのだろうか。筆者は決してそうではないと思う。

「やってみなはれ」。サントリーを創業した鳥井信治郎氏も、松下電器産業を興した松下幸之助も、この言葉をよく発していたという。やってみないと分からない、という意味が込められている。まさしく「D」から入っていこう、というメッセージだ。

日本からイノベーションが創発されづらくなっている要因の一つに、「やってみはなれ精神」の欠如があることも、中国や米国での取材を通じて感じた。

日本企業に「やってみはなはれ精神」を呼び戻すためには、「ベテランが若手の成長を見守る心」を大切にすることではないかと思う。これは深圳での取材で感じたことだ。

今やドローンで世界的企業に成長したDJIの20代の元社員にインタビューした際に、その人は「DJIが成長した理由は、若い人に多くの経験をさせて、前向きな失敗なら許すことだ」と語っていた。

冒頭で述べた工作機械・ロボット関連の企業も、オーナーは60代の日本人だが、「すべての仕事は若い中国人に任せて、一切口を出さない。常々、私に相談せず、自分で判断しなさいと言っている。私が会社で仕事をするのは、顧客とトラブルがあって謝りに行く時だけと決めている」と言う。その結果、2016年から17年にかけて、売上高は60%伸びたそうだ。 

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