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ダーウィン『種の起源』は実は神学書だった

「自然選択」の正しい意味を知っていますか?

『種の起源』には、神が生物を造ったと書いてある

ダーウィンが言ったことは、間違いだらけだ。たとえば、ダーウィンはいわゆる獲得形質の遺伝を認めていたし、そのメカニズムを説明するために、パンジェネシス仮説を主張した。

この説によれば、生物の体の各部分の細胞には、その部分の特徴を決めるジェミュールという粒子があるという。筋肉トレーニングをすれば、筋肉が増える。つまり、新しい形質を獲得する。形質が変われば、ジェミュールも変化する。このジェミュールが、血管などによって生殖細胞に集まる。子供は生殖細胞から発生するので、獲得形質は子供に遺伝する、というわけだ。

 

ダーウィンのいとこであるフランシス・ゴルトン(1822〜1911)は、ウサギ同士で輸血をして、ジェミュールの存在を実証しようとした。ジェミュールが血液によって運ばれるのであれば、血液を採られたウサギのジェミュールが、輸血されたウサギの生殖細胞に集まって、その子供に伝わるはずである。つまり、血液を採られたウサギの形質が、輸血されたウサギの子供に現れるはずである。

しかし、いくら実験しても、そういう現象は見られなかった。そのため、ゴルトンはパンジェネシス仮説が反証されたと考えたが、ダーウィンは認めなかった。ジェミュールは血液によって運ばれるとはかぎらないと言って、ますますパンジェネシス仮説に固執したのである。

【写真】C.R.ダーウィンとSir,F.ゴルトン
チャールズ・ロバート・ダーウィン(Charles Robert Darwin, 1809-1882、左)と従兄弟にあたるフランシス・ゴルトン(Sir Francis Galton, 1822-1911、右) photo by gettyimages 

他にもダーウィンはいろいろと間違えたことを言っているけれど、次のように言って、ダーウィンをかばう人もいるかもしれない。

「たしかに、ダーウィンは間違ったことも言ったけれど、でも当時は宗教の影響が強くて、生物が進化すると言うだけでも大変だったんでしょう。そんな時代に、宗教的な考えを完全に取り払って、進化を科学的に考えただけでも偉いじゃない?」

いや、そんなことはない。たとえばダーウィンのもっとも有名な著作である『種の起源』には、生物は神(the Creator)が造ったと書いてある。自然選択は神が設定した法則だとも書いてある。『種の起源』は神学書であり、イングランド教会の高名な聖職者だったチャールズ・キングズリー(1819〜1875)も絶賛しているくらいだ。

一方、ダーウィンも、『種の起源』がキングズリーに好評だったことが嬉しかったのだろう。『種の起源』を改訂したときに、キングズリーの言葉の一部を挿入している。宗教界がこぞって『種の起源』に反対したという話をときどき聞くが、それは思い込みである。たしかに、『種の起源』に反対した人が多かったけれど、好意的だった人もいたのである。だって、『種の起源』は神学書なのだから。

それでも、次のように言って、まだダーウィンをかばう人もいるかもしれない。

「たしかに、ダーウィンは間違ったことも言ったけれど、『種の起源』は科学書としては不完全かもしれないけれど、でも自然選択は発見したんでしょう? 自然選択に関しては、ダーウィンが言ったことは正しかったんでしょう?」

いや、そんなことはない。そもそも自然選択を発見したのはダーウィンではない。しかも、ダーウィンが主張した自然選択のモデルは、現在では否定されているのだ。