不正・事件・犯罪

「徹夜運転」の車に結婚直前の息子を殺された家族の慟哭

なぜこの国では「厳罰化」されないのか

「睡眠障害」を認識しながら運転し、事故を起こしたとして、運送業の男性が全国で初めて危険運転致傷容疑で逮捕された。また、6月1日からは国交省が運送トラックやバス、タクシーの運転手に、点呼時の睡眠状態チェックを義務付ける。

「居眠り」が運転に及ぼす危険性は周知のとおりだが、最近まで具体的な対策が行われてこなかったのはなぜなのか? 実は、日本の交通統計には「居眠り」による事故がほとんどカウントされていないのだ。その裏事情を探る。

3度の免停を食らっていても

5月21日、居眠り運転(睡眠障害)で事故を起こした運転手が、危険運転致傷容疑で逮捕された。居眠りが「危険運転」とみなされるのは全国初ということもあり、新聞はこのニュースを以下のように大きく報じた。

<『睡眠障害を認識と判断、危険運転致傷容疑で初の逮捕』> 

眠気で意識がもうろうとした状態を認識しながら車を運転して事故を起こしたとして、警視庁は21日、東京都江戸川区の運送業大場雅文容疑者(60)を自動車運転死傷処罰法違反(危険運転致傷)の疑いで逮捕し、発表した。(中略) 

交通捜査課によると、逮捕容疑は1月21日午前7時5分ごろ、東京都中野区本町2丁目の都道で睡眠障害によって正常な運転ができないことを認識しながら軽四貨物車を運転して、トラックを止めて作業をしていた男性会社員(40)をはね、足の骨折など約6カ月の重傷を負わせたというもの。「途中で眠くなることがあったのに運転し続けていた」と容疑を認めているという。

大場容疑者は事故当時、警察官に「考え事をしていた」と話していたが、その後の調べに「はっきりと覚えていない。気付いたらぶつかっていた」と説明。2014年以降、今回を含め少なくとも19件の事故を起こして免許停止処分を3回受けており「ほかにも覚えていない事故が何件かある」と話しているという。睡眠障害を疑ってこれまでに病院を2回受診したが、通院はしていなかった>(『朝日新聞』5月22日)

 

短期間に19回もの事故を起こし、3回の免停処分を受けていたというこの運転手。いったい、彼を雇用していた運送会社の運行管理はどうなっていたのだろう? 

いや、それ以前に、警察や検察は繰り返し起こっていた真の事故原因を、本当に正しく判断してきたのか。

そもそも「危険」と判断されるような居眠り運転は、『道路交通法第66条(過労運転等の禁止)』に違反するとみなされ、違反点数は25点、一発で免許取り消しという極めて厳しい処分となる。この条文については後で取り上げるが、この運転手が19回も事故を起こしていたということは、少なくとも免許取り消しにはなっておらず、「過労運転」ではなく、より軽い「安全運転義務違反」(2点)、つまり、わき見や漫然運転で処理されてきた可能性が高い。

わが子の死亡事故をきっかけに、睡眠と事故の問題に長年警鐘を鳴らし続けてきた医師の緒方節男さん(88)はこう指摘する。

「睡眠時間を削った無理な運転は、飲酒運転と同様、いや、それ以上に、非常に危険な状況を生む可能性があります。居眠りは一時的に意識を失っているのと同じことです。その状態が運転に及ぼす危険性を、日本人はもっと肝に銘じる必要があると思うのです」

婚約者の両親に会いに行く前日に…

緒方さんは今から18年前、交通事故で息子を失った。

平成11年7月31日、この日、三男の禎三さん(31)はバイクに乗り、同僚らと名古屋から乗鞍岳まで1泊2日のツーリングに出かけていた。その途中、センターラインをオーバーしてきたワゴン車に正面から衝突され、木曽川に転落。全身を強く打ち、死亡したのだ。

事故の知らせを受けた緒方さんは、福岡県大牟田市の自宅から、すぐに事故現場である岐阜の救急病院へ駆けつけた。

目の前にあったのは、禎三さんのレントゲン写真だった。外科医である父親の緒方さんは、自身でその画像を確認したという。

緒方さんの遺体損傷メモ

「頸髄損傷のほかに、頭蓋底骨折と脳挫傷が認められ、一目見て、即死の状態であったことがわかりました」

遺体の状態もくまなく調べたところ、頭部のほか両手両足にも開放骨折を負っており、全身に大きなダメージを受けていることが分かった。

禎三さんはこの年の3月に医学部を卒業し、5月には医師国家試験にも合格。麻酔科医として就職先の病院も決まっていた。事故の翌日には、婚約者の実家へ挨拶に行く予定だった。