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トランプと金正恩、実は会談をやりたい二人を阻む「最後の関門」

実は国内の反対勢力こそが問題

「6月12日シンガポール」と、5月10日にトランプ大統領のツイッターで日程と場所が発表された歴史的な米朝首脳会談が、「漂流」している――こう記したのは、ちょうど一週間前のこのコラムの冒頭だった。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55762

だがこの一週間も二転三転し、「一体どうなるの?」と気を揉むばかりだ。これはある意味、米朝関係と北朝鮮の未来を暗示しているように思えてならない。

「完全で検証可能かつ不可逆的な解体」をめぐり

この一週間に起こったことを振り返ってみよう。先週月曜日、5月21日にペンス副大統領が、トランプ政権御用達のFOXテレビのインタビューに答えて、こう述べた。

「金正恩委員長がトランプ大統領を手玉に取れると思っているなら、それは大間違いだ。米朝首脳会談が行われない可能性もあることは、疑問の余地がない。もし北朝鮮が非核化に応じない場合は、リビアのような結末を迎えるだろう」

この話ぶりから窺えることは、対北朝鮮強硬派として知られるペンス副大統領は、シンガポール会談にトランプ大統領が出向くことに反対だということだ。おそらくボルトン安保担当大統領補佐官も同様だろう。

なぜなら、現状では、北朝鮮が非核化に関して、「CVID」(Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement = 完全で検証可能かつ不可逆的な解体)を容認することはないと見ているからだ。

北朝鮮が主張しているのは、あくまでも従来型の「段階的非核化」である。すなわち、北朝鮮が一つ譲歩したら、アメリカ及び国際社会も一つ譲歩するという「行動対行動」だ。後述するように、そうしないと北朝鮮内部で、金正恩政権が持たなくなるのである。

 

翌5月22日にホワイトハウスで、トランプ大統領と文在寅大統領の米韓首脳会談が行われた。トランプ大統領のコメントは、以下の通りだ。

「北朝鮮は、中国の習近平主席との2回目の会談(5月7日、8日)の後から、態度が変わった。習主席は、ワールドクラスのポーカー・プレーヤーだ。

(米朝首脳会談が)なくなれば、それは別の機会に行われるかもしれない。私は多くの時間を無駄にしたくないし、それは金正恩委員長とて同じだろう。会談が開かれない可能性は大いにあるし、それでもOKだ」

これに対して米朝首脳会談の橋渡し役を自任する文在寅大統領は、「米朝首脳会談が予定通りに行われるよう最善を尽くしていくことで合意した」と述べた。トランプ大統領の隣に座って笑顔を取り繕ってはいるが、狼狽した様子が見て取れた。

文在寅大統領としては、どうしても6月12日にシンガポール会談を開いてほしい国内事情がある。それは翌日の13日に、文在寅大統領にとっての「中間選挙」にあたる統一地方選挙を控えていることだ。

韓国に17ある広域自治体の首長は現在、与党「共に民主党」がソウルなど7ヵ所、最大野党「自由韓国党」が5ヵ所、「正しい未来党」が2ヵ所を占めている。残り3自治体の首長は空席となっている。

また同時に、ソウル市、慶尚道、全羅道、忠清道など全国12選挙区で、国会議員の再選挙・補欠選挙が実施される。国会は現在、300議席のうち、与党「共に民主党」が118議席、第1野党の「自由韓国党」が113議席、第2野党の「正しい未来党」30議席、「民主平和党」14議席 、「正義党」6議席などとなっている。

すなわち、与党と第1野党の議席数の差はわずか5議席で、今回の選挙の結果次第では、第1党が入れ替わる可能性があるのだ。そのため文大統領としては、歴史的な米朝首脳会談を成功させた立役者となって、翌日の重要選挙で勝利を収めたいのである。

久々に「北朝鮮節」が復活

続いて、この米韓首脳会談の二日後の24日夜、崔善姫外務省副大臣が朝鮮通欧通信を通じて、次のような談話を発表した。ペンス副大統領やボルトン安保担当大統領補佐官など、強硬派を牽制する激しい内容で、全文は以下の通りだ。

〈 21日、ペンス米副大統領はFOXニュースとのインタビューで、「北朝鮮がリビアの戦術を踏襲する可能性があり、北朝鮮に対する軍事的オプションを排除したことはない。アメリカが要求しているのは、完全で検証可能で不可逆的な非核化である」とか何とかしゃべりまくり、おこがましく弄んでいる。

アメリカとの交渉を担当している私としては、アメリカ副大統領の口から、このような無知蒙昧な声が飛び出したことに対して、驚きを禁じ得ない。

仮にも「唯一の超大国」の副大統領であるなら、世界を行き来する水くらいには世界のことを知り、対話の流れと状勢緩和の気流も、いくらかは感じてこそ正常な人間というものだ。

核保有国であるわが国を、精一杯やってもたいした設備をこしらえることもできなかったリビアと比較するということだけを見ても、ペンスがどれほど政治的に愚かな呆(ほう)け者であるかを、認識して余りある。

ホワイトハウスのボルトン国家安保補佐官に続いて、今回またもやペンス副大統領が、リビアの前轍を踏むようにさせると力説したが、まさにリビアの前轍を踏まないために、われわれは高い代価を払って、自尊心を守りながら、朝鮮半島と地域の平和と安全を守り抜ける強力で信じるに足るパワーを養ってきたのだ。

それなのに、この厳然とした現実を、いまだ悟ることもできないで、われわれを悲劇的な末路を歩んだリビアと比較することを見ても、アメリカの高位の政客たちが、われわれをあまりに知らなすぎるという思いがする。

彼らの言葉をそのまま受け取ったならば、われわれも、アメリカがいままで体験しえなかった想像もできない残酷な悲劇を見せてやることになるだろう。

ペンスは自分の相手が誰なのかを、きちんと知りもせずに、無分別に脅迫的な発言をする前に、そうした言葉が呼び起こす恐ろしい結果に対して、熟考せねばならなかったのだ。

彼らの方から先に対話を願い出てきたというのに、まるでわれわれが(トランプ大統領に)会わせてほしいと懇願したかのように、世論を誤って導いている彼らは何なのか。アメリカがそれによって得られると打算したものが何なのか、哀れに思うばかりだ。

われわれはアメリカに、対話を物乞いすることはなく、アメリカがわれわれと向き合わないのならば、こちらからわざわざ捕まえることはないだろう。

アメリカがわれわれと会談場で会おうというのか、そうでなければ核対核の対決の場で会おうというのか、すべてはアメリカの決心と出方にかかっている。

アメリカがわれわれの善意を冒瀆し、その後に不法無道に出て来る場合、私は朝米首脳会談を再考することに対する問題を、最高指導部に提起するものである 〉

このように、久々に激しい「北朝鮮節」が復活した。

崔善姫副外相は、崔永林元首相の養女と言われるが、こうした批判は北朝鮮内部に、少なからず今回の米朝首脳会談に反対している層がいることを示唆している。北朝鮮とて、決して一枚岩ではないのだ。

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