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ブルーバックス新装幀でブックデザイン賞!

装幀家が見た科学新書の26年史

講談社が主催する「講談社出版文化賞」の一部門「ブックデザイン賞」の2018年度の授賞式が本日、執り行われます。

第49回目となる同賞は今年で幕を閉じますが、その最後の受賞者が、1992年からブルーバックスのアートディレクションを担当してくださっている装幀家・芦澤泰偉(あしざわ・たいい)さんに決定しました!

過去の受賞者一覧をご覧いただければわかるように、「ブックデザイン賞」は日本を代表する錚々たる装幀家のみなさんに贈られてきました。

編集部にとっても嬉しい今回の受賞を記念して、芦澤さんへの突撃インタビューを敢行しました!

(取材・文/中川隆夫)

"特別"な新書シリーズだから賞がとれた!?

――「ブックデザイン賞」の受賞、おめでとうございます! 受賞理由に、「ブルーバックスをはじめとするブックデザインに対して」とあります。編集部としても喜ばしいかぎりです。

芦澤 ありがとうございます。装幀を対象にした賞は限られていますので、長く仕事をしてきてこうして表彰していただくのは素直に嬉しいですね。今後の励みにもなります。受賞の知らせは編集部からではなく、総務系のセクションから電話があったので、請求書の書き間違いでもあったかなと最初は誤解してしまって……(笑)。

「おめでとうございます」と伝えられて、あっ!……、ブックデザイン賞かと、気づきました。先ごろ亡くなった西部邁さんと親しくさせていただいていたものですから、彼が世を去ってから落ち込んだ日が続いていたのですが、今回の受賞でいくらか心が晴れたような気がします。受賞後まもない仕事のうち1つは、彼の日本を語った対談集です。

――最後のブックデザイン賞受賞者ということになりました。

芦澤 間に合って良かった(笑)。正直に言うと、毎年この賞が発表される3月になると、ちょっと気にする部分があったんですよ。これまでにも何度かは、もしかして今年はあるかなと思えるような仕事ができた年もあって……。最後に名前が刻まれて、ほんとうに良かったです。

新書のデザインでブックデザイン賞をもらったの? と不思議がる人もいますが、そういう人には「ブルーバックスは特別な新書なんだよ」と説明しています。

ブルーバックスが築いた独特のポジションとは?

――芦澤さんは、1992年1月発売の通巻901番『薬は体にどう効くか』から四半世紀以上にわたって、ブルーバックスのデザインを担当されています。のべ1150点以上のブルーバックスが芦澤さんの手によって装われてきたわけで、在籍する現役編集者の誰よりも長い時間、このシリーズに携わっているんですよね。

どのようなきっかけで、ブルーバックスのデザインを手がけることになったのでしょう?

芦澤 その前年に、講談社の装幀室を経由して「ブルーバックスのデザインをリニューアルしたいので、プレゼンテーションに参加しませんか」というお話がありました。当時の発行責任者や編集長をはじめ、何人かの前で、実際に表紙サンプルをパネルにして、プレゼンをした覚えがあります。しばらく経ってから、「ぜひお願いしたい」と。

――プレゼンの際には、どのようなデザインを提案されたのでしょうか。

芦澤 細部は後で詰めましたが、ほぼリニューアル後の最終形に近いデザインでしたよ。強く意識していたのは、ポップな感じを前面に打ち出そうということ。イラストレーターにも若い人を積極的に登用して新鮮さを出しながら、タイトルをより目立つように、大きくスペースを取りました。

装幀家からみて、新書は「いちばん手にとってもらいたいサイズ」なんです。文系/理系を問わず、読みたくなるイメージを醸し出したいと考えていました。

とはいえ、ブルーバックスにはその時点で創刊以来30年の歴史が積み重なっていて、既刊900点の蓄積がある。書店の棚に並んだときに、従来からのシリーズのイメージが変わらないように気を配りました。そういう観点から、背の最上部にある火星人マークと、最下端の青い帯は残したんです。

当社資料室に収蔵されているブルーバックス。背には、おなじみの青い帯と火星人ロゴ(下も)を生かした

細かいことを言えば、新書のカバーは通常、2色~4色のインクで印刷されます。しかし、私が担当させていただくにあたって、ブルーバックスのカバーには特色を1つ加えて、計5色にしてもらいました。

ブルーバックスファンの方はよくご存じだと思いますが、カバーの地に、ウォームグレーを使うことにしたんです。ポップなイラストに合う、落ち着きのあるグレーを合わせる狙いでした。白地にすると、ちょっと派手すぎますからね。

『薬は体にどう効くか』

薬は体にどう効くか
901番の『薬は体にどう効くか』は記念すべき芦澤さんご担当第1号

――アートディレクターに就任される前は、ブルーバックスに対してどのようなイメージをもっていましたか?

芦澤 私たちの世代にとって、ブルーバックスは世の中で独特のポジショニングを築いている新書シリーズで、理系/文系にかかわらずたくさん読んでいましたよ。

私は20代の2年半、松岡正剛さんがやっていた「工作舎」にいたのですが、そこの本棚にもずらりと並んでいました。“ど文系”の私でも、素粒子の本などを読んでいましたから。中高生向けの科学入門書というだけでなく、大人が読んでも知的興奮を覚えるシリーズという印象でしたね。この点は、今も変わっていませんが。

ブルーバックスは「単行本に近い新書」

――工作舎といえば、松岡正剛さんが編集していた『遊』をはじめ、デザインに非常にこだわっていました。ブックデザイン賞の歴代受賞者にも、工作舎の関係者は多いですね。

芦澤 杉浦康平さんをはじめ、すぐれたデザイナーが関係していました。私は広告デザインの会社に務めていたときに、松岡さんに出会って入ったのですが、文字どおりの不夜城で(笑)。ほとんど泊まり込みのような毎日が続いて、仕事は抜群に面白いけど、もう少し遊んでみたいと、いったんは広告デザインの世界に戻った時期もあるんです。

それでも、やっぱり本が好きだったから、もう一度ブックデザインの世界に戻る決意で、38歳で独立して「芦澤泰偉事務所」を立ち上げました。ブルーバックスのデザインを手がけるようになったのは、その数年後のことです。

――今ではブルーバックスの他に、新書や文庫、文芸書、思想書など、さまざまなジャンルのブックデザインを手がけていらっしゃいますね。

芦澤 あらためて数えたことはありませんが、これまでに手がけた本は8000冊を超えているでしょうね。今はたくさんのシリーズものを任せていただいていますが、初めて携わったシリーズがブルーバックスでした。

従来の、社会、経済、歴史などを中心に据えていた新書に比べて、読者のバックグランドや年齢層が幅広い。自然科学はもちろん、科学的な視点から取り扱えるテーマも含まれているからカバーするジャンルもバラエティーに富んでいる。それが「いちばん手にとってもらいたいサイズ」に収まっている。そのことに、魅力を感じましたね。

そのような独特のポジションを得ている新書シリーズが、ほとんど書き下ろしだけで構成されている。すごいことです。連載をまとめたり、さまざまな媒体に書いたものをアンソロジーにするんじゃなくて、理科系の研究者が著者になって、1年以上の時間をかけて書き下ろしているわけで、より単行本に近い雰囲気をもった新書シリーズという性格も備えています。

文庫と同じように持ち歩きやすいサイズだけど、著者の思いがより強く詰まっている。その点をできるだけ表現しようと、毎回編集者と打ち合わせをしています。通常の新書だと、タイトルの指定だけして印刷所に入れることもあるけど、ブルーバックスはイラストや写真からタイトルの書体選びまで、1冊ごとにイチから考えていますから。

ブルーバックスとの26年間の歩みを回想する
ブルーバックスとの26年間の歩みを回想する芦澤さん