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"経営学の巨人"P.F.ドラッカー いままた大人気の秘密
小説『もしドラ』が、30代の若いビジネスマンを中心に大ヒット
ドラッカー本のなかでも代表的な著書『マネジメント』

「仕事に行き詰まった時には、いつも彼の本を手に取ってしまいますね」
(40代・電器メーカー・課長・男性)

「会社の人間関係に悩んだ時、彼の言葉に何度救われたか分かりません」
(30代・食品メーカー勤務・女性)

  "経営学の巨人"と称される、P・F・ドラッカーの本が今、バカ売れしている。しかも、冒頭のコメントのように、経営者や幹部社員だけではなく、普通のサラリーマンやOLの読者が急増中だ。'05年に亡くなった経営学者の著書がなぜ今ブームなのだろうか。

ベストセラー『もしドラ』と『マネジメント』のカンケイ

 ドラッカー研究の第一人者で、日本で出版されたドラッカー本の大部分を翻訳した、「ドラッカー学会」代表の上田惇生氏は、その背景をこう分析する。

「昨年はドラッカーの生誕100年にあたり世界中で様々なイベントが企画されました。その影響もあると思いますが、リーマン・ショック後の経済危機の中、今の企業のあり方に対して疑問を感じる人が増えたことも彼が支持される要因でしょう。ドラッカーの本にはそうした疑問の答えがすべて詰まっているのですから。ただ、なんと言っても今回のブームの火付け役が『もしドラ』なのは間違いありません」

 『もしドラ』とは、ベストセラー『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)の略。萌え系の表紙イラストからは、アキバ系の「萌え」と実用書をミックスした本と想像してしまいそうだが、ドラッカーが遺した名著『マネジメント』のエッセンスを、小説仕立てで学べる、本格的なビジネス書なのだ。

 ドラッカーは1909年生まれの経営学のパイオニアで、「マネジメントの父」「現代社会最高の哲人」と称される人物。IBMの成長を加速させ、GEの劇的な組織改革を成功させたことでも知られている。今では常識となっている「時間管理」や「目標管理」「生産性」などの概念を初めてビジネスに持ち込んだのもドラッカーだ。

 だが、最大の特徴は、彼の言葉が膨大な取材と実体験によって導かれたビジネスの原則と方法論であり、決して小手先のハウツーではないことだ。そして、『マネジメント』は1973年、ドラッカーが63歳の時に著した組織経営に関する大ベストセラーである。

 その再ブレイクのきっかけとなったのが『もしドラ』。ストーリーは、ある公立高校の野球部のマネージャーを務める川島みなみが、たまたま経営学書『マネジメント』に出会ったことから始まる。野球部が抱えるさまざまな問題を、ドラッカー流マネジメントを実践しながら乗り越えていき、夢の甲子園出場を果たす・・・という、痛快な青春小説である。

岩崎夏海●いわさき・なつみ 41歳 作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として活躍する一方、「AKB48」でプロデューサーを務めた 
〔PHOTO〕 西崎進也

 著者の岩崎夏海氏は、なぜこんな本を書くことになったのか。

「ドラッカーを知ったのは5年前です。当時、ファイナルファンタジーというオンラインゲームにはまっていて、自分のチームをうまくまとめる方法はないかと悩んでいた。
  そんななか、同じゲームで別のチームのキャプテンをやっている人が、「自分はドラッカーの本を参考にチームをまとめている」と、ブログで書いているのを見たんです。
『ドラッカーの本を読めばいいのか』と、安易な気持ちで本を買い求めたのがきっかけでした」

 しかし、『ドン・キホーテ』や『ハックルベリー・フィンの冒険』などの古典小説が好きだった岩崎氏は、『マネジメント』を一読した瞬間、そうした作品に共通するオーラを嗅ぎ取った。「これこそ本当の人生の書だ」と確信したという。

 岩崎氏がドラッカーの言葉で強く感銘を受けたのは、以下の3点だという。

・「人は最大の資産である」
・「目標は具体化しなければならない」
・「知りながら害をなすな」

「ドラッカーの本は組織や人間の本質を明快に説き起こしてくれるのが魅力です。それも、特に難しい言葉を使っているわけじゃなく、シンプルな言葉遣いだから、余計に心に染みこんでくる。まるで、僕の悩みを知っていて、その答えを書いてくれているような気がしたのをよく覚えています」(岩崎氏)

 なかでも特に岩崎氏の心を捉えたのが『人こそ最大の資産である』(『マネジメント』より)という言葉だった。

〈 人が雇われるのは、強みゆえであり能力のゆえである。組織の目的は人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある 〉

 岩崎氏はドラッカーのこの言葉をこんなふうに解釈した。

「それまでの自分は自分が正しいと思うことだけを主張して、相手をないがしろにしていた。かなり傲慢です。ところがドラッカーを読んでからは、相手の短所ではなく長所(強み)に注目して、それを生かせるポジションについてもらうことを考えるようになりました」(岩崎氏)

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