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中国・李克強首相が初来日で日本に求めたこと「全文公開」

日中首脳会談110分を読み解く
近藤 大介 プロフィール

「拉致問題」を押して「非核化」を引いた格好

まず、「3ヵ国で世界のGDPの2割超」とあるが、2017年の名目DGPは、中国が12兆146億ドル、日本が4兆8721億ドル、韓国が1兆5380億ドルである。それぞれ世界2位、3位、11位だ。中国から見ると日本の2.5倍、韓国の7.8倍。日本から見ると中国の40%、韓国の3.2倍。韓国から見ると、中国の12%、日本の31%である。3ヵ国を並べると、韓国:日本:中国は、1:3.2:7.8である。このように巨大な中国経済の存在感が顕著だ。

オリンピック・リレーについては、最初に行われた今年2月の平昌からして、習近平主席は不参加だった。安倍首相も「国会日程などを勘案して(参加を)最終的に決める」と、ギリギリまで思わせぶりだった。

それでも韓国政府関係者の話によれば、安倍首相が宿泊予約しているホテルがキャンセルされなかったため、最後は来てくれると信じていたという。結局、安倍首相は参加したが、予定を一日早めて帰ってしまった。2020年の東京オリンピックの開会式には、習近平主席、文在寅大統領ともに参加してほしいものだ。

3ヵ国の人的交流を2年後に3000万人にする目標については、十分達成できるだろう。2017年の各国統計を調べてみると、まず訪日観光客が一番で、中国からが735万5818人、韓国からが714万165人である。一方、日本からの出国は、中国へが259万人(2016年)、韓国へが約230万人である。それぞれ入国が出国の3倍規模であり、日本からすれば大幅な「観光黒字」ということになる。

ちなみに中韓間の人的交流は、中国から韓国が417万人(前年比48.3%減)、韓国から中国へが452万人(同13.0%減)。これはアメリカ軍が韓国にTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を配備し、両国関係がこじれた影響が大きい。

 

ともあれ、これらを合計すると、すでに2800万人超が3ヵ国を往来しており、それから3年後の2020年は、東京オリンピック・パラリンピックもあるので、3000万人突破は、むしろ低すぎる目標のような気がする。

「保護主義との戦い」については、まさにアメリカとの「貿易戦争」を戦っている中国が強調したかったところだ。もちろん、アメリカの同盟国である日本と韓国も、米トランプ政権が巻き起こしている貿易騒動には辟易しているから、中国の意向に乗ったのだろう。後半部分の「パリ協定への賛意」も、同様の流れである。

この「軍事的にはアメリカに依存し、経済的には中国に依存する」という部分は、21世紀前半のアジア各国にほぼ共通した流れである。それだけに、アジア各国は米中両大国による「股裂き」に苦悩する。しかもこの苦悩は今後、ますます肥大化していくことが懸念されるのだ。

日中韓FTAに関しては、2008年秋のリーマン・ショックを受けて、麻生太郎首相(当時)が音頭を取って初めて日中韓サミットを、麻生首相の故郷・福岡で開催した時から、議論になっていた。ところが2012年に第5回を北京で開いた時、韓国の李明博大統領が中国に日本抜きの「抜け駆け」を提起し、それまで「日本抜きのFTAは意味がない」と突っぱねていた中国は、乗ってしまった。実際に中韓FTAが発効したのは、2015年12月である。

だがやはり、日中韓FTAが手本にしているNAFTA(北米自由貿易協定)が、アメリカ、カナダ、メキシコ3ヵ国によるFTAであるように、3ヵ国揃い踏みにならないと、安定感に欠ける。日中韓FTAは、3ヵ国ともにメリットをもたらすものなので、やはり一刻も早く締結するのが望ましい。

電子商取引に関しては、アジア最大の電子商取引企業であるアリババの影響が大きい。アリババの馬雲(ジャック・マー)会長は、習近平主席の「朋友」として知られ、2016年9月に習近平主席が主催した杭州G20で、習主席に直談判。「杭州宣言」(コミュニケ)の第30条に、EWTP(世界電子貿易プラットフォーム)を構築することを入れ込んだ。

日本としても、楽天で中国人がショッピングをしたり、アリババのサイトに日本の商品をアップさせたりということは、大いに望ましいことだ(アリババのサイトにはすでに「日本館」が立ち上がっている)。

ただ、電子商取引に不可欠な電子決済、とりわけスマホ決済に関しては、日本は残念ながら中国より周回遅れである。日本のメガバンクは、日本市場への「アリペイ襲来」を阻もうと壁作りに必死だが、早く日本独自のシステムを構築しないと、壁は早晩、破られてしまうだろう。

次に、健康及び高齢化社会を「人間の安全保障」と捉えたことは評価したい。30年後には中国で、還暦を超えた高齢者が約5億人に達する人類未曽有の超高齢化社会が到来する。まさに、「人間の安全保障問題」なのである。そのため中国は現在、日本の高齢化社会対策を学ぼうとしている。

国連の推定によれば、高齢社会(全人口の7%以上が65歳以上)から高齢化社会(同14%以上)に移行する期間は、中国が27年、日本が26年、韓国が20年で、フランスの114年、アメリカの65年などと較べて、東アジアは圧倒的にスピードが早いのである。

高齢化社会に先に突入している日本は、この分野で主導しやすい。換言すればビジネスに勝機があると言える。実際、2015年にCITIC(中信)への日中投資史上最大規模の6000億円投資で話題を呼んだ伊藤忠商事は、この分野を強化している。何せ中国には、いまだ介護保険もなければ、老人ホームも充実していないのである。

5Gモバイル通信に関しては、いままさに「米中貿易戦」の主戦場となっている。米トランプ政権は、次世代技術の中核をなす5Gにおいて、このままではファーウェイ(華為)やZTE(中興通訊)を中心とした中国勢に世界市場を席巻されると警戒し、まずはZTE潰しに走った。ZTEは上場企業だが、深圳市が中心となった国有企業であり、すでにスマホの供給がストップするなど、大打撃を被っている。

「3+1」モダリティは、習近平政権が提唱する「一帯一路」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)に日本と韓国も加わり、3ヵ国で協力して第三国市場(東南アジアなど)のインフラ整備などを行っていくというイメージではなかろうか。