オンコセルカ症パッチテストを受ける子どもたち photo by gettyimages

平成の野口英世「大村智」の何が凄いのか?

「策士」でもあったノーベル賞研究者

感染症特効薬に贈られたノーベル賞

He Lived and Died for Humanity(人類のために生き、そして死んだ)――ちょうど90年前の1928年5月21日、渡航先のガーナで、51歳で客死した細菌学者・野口英世。

米国ニューヨーク郊外にある彼の墓碑には、そう刻まれている。アフリカや中南米で猛威を振るっていた感染症の征圧に人生を捧げ、蚊が媒介する黄熱病の病原体を解明しようとした志半ばで、自らその病魔に倒れた。

上京後、“日本の細菌学の父”とされる北里柴三郎の創設した伝染病研究所に在籍したことを足掛かりに渡米。米国のロックフェラー研究所を拠点に、進行麻痺の原因が梅毒スピロヘータであることを発見するなど、微生物学や血清学において旺盛な研究成果を挙げた。

その業績には、後に誤りと判明したものもあるが、立身出世の世界的偉人であり、日本銀行券に肖像が描かれている初めての科学者だ。アフリカにおける医学研究の先駆けとなった研究は、同研究所に引き継がれ、マックス・タイラーが37年に黄熱病ウイルスに対する予防ワクチンを完成させた(1951年にノーベル生理学・医学賞受賞)。

野口英世
野口英世 photo by getty images

1901年から始まったノーベル賞は、人類に対して最大の貢献をした人に授与される。薬や治療法の開発は、貢献が目に見えやすい。青カビからペニシリンを見いだしたフレミングら(1945年生理学・医学賞)、結核の特効薬ストレプトマイシンを発見したワクスマン(1952年同)など、薬に対する授賞は何度かあるが、黄熱病を始めとして、感染症が人類の大きな脅威だったことを物語る。

そして、2015年のノーベル生理学・医学賞は、大村智氏(北里大学特別栄誉教授)ら3人に贈られた。大村氏は、共同受賞者である米国のウィリアム・キャンベル氏と共に、多くの寄生虫病に有効な治療薬イベルメクチンを開発した。3人目の受賞者は、現在最も有効なマラリア治療薬の発見者、中国の屠呦呦(と・ゆうゆう。ゆうは口偏に幼)氏だ。

大村氏は、“平成の野口英世”、あるいは“平成の北里柴三郎”とも称される。両者とは異なり、医師ではなく化学者だ。イベルメクチンは、1970年代半ばに土壌の中から発見した放線菌から生まれた薬で、3億人を寄生虫感染症による失明の危機から救った。

大村氏 近影
大村智 photo by gettyimages