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「泣き声通報」と児童相談所の訪問が招いた家庭崩壊の悲劇

育てられない母親たち【21】
ノンフィクション作家の石井光太さんが、「ワケあり」の母親たちを密着取材していく本連載。彼女たちが「我が子を育てられない」事情とは?
 

石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

児童相談所への通報件数は、年々増えている。

虐待の認知度が広まり、児童相談所の役割が知られていることが大きいだろう。

児童相談所の側も大きな虐待事件が起きれば責任を問われかねないため、児童相談所全国共通ダイヤルである「189」を様々な形でPRしている。役所、学校、掲示板、公共施設でも、そうしたポスターを見かけることが増えた。

通報の増加は歓迎するべきことだ。だが、すべての通報が、適切に行われているかと言われればそうではない。ちょっとした夫婦の諍い、物音、それに赤ん坊の泣き声が、虐待と間違えられて通報されるケースがある。

誤通報は、通報件数の増加に比例して増えているといわれている。逆に考えれば、それだけ多くの家族が誤解を受けて児童相談所の立ち入りを受けているのだ。

夫婦にしてみれば、誤解とはいえ、児童相談所に押しかけられるショックは相当のものだろう。そして、それがもとで家族が引き裂かれることもある。

 

二世帯住宅で姑と揉める

貝山瑠奈(仮名)は短大を卒業後、専門学校を経てオフィス機器関係の営業の仕事をしていた。仕事はそれなりに充実していて友達も多かった。

ただ、3年目に上司とうまくいかなくなり、うつ病になってしまった。半年間、休職したが、会社での立場が悪くなり、辞職することを決めた。

結婚したのは、25歳の時だった。会社を辞職してからうつ病のリハビリをかねて東北にボランティアに行っていたのだが、そこで知り合った男性と遠距離恋愛を育み、籍を入れることにしたのである。相手は、4歳年上の正志(仮名)だった。

新生活は、正志の実家ではじまった。正志は地元で家族経営の不動産会社で働いていたので、仕事の上でも、経済的な面でも、同居した方が楽だということになったのである。

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二世帯住宅で、1階に正志の両親が住み、2階に瑠奈たちが住んだ。引っ越しにあたって2階にキッチンを急設したものの、浴室、トイレ、洗濯機などは1階のものを共有することになっていた。玄関も同じだった。

瑠奈は夫の家族と仲良くしようとしたが、特に姑である美和子(仮名)との関係がうまくいかなかった。美和子はなにかとケチをつける性格で、仕事や家事への苦言はもちろん、日常の些細なことでも文句を言ってきた。

玄関に置く靴が多すぎる、浴室の使い方が汚い、洗濯機を壊された……。また、2階で歩く音が下に響いて眠れないといったクレームまでつけてきた。

1年ほど瑠奈は我慢したが、家にいる時は常に気を張っているせいで再びうつ病を悪化させた。妊娠がわかったのは、そんな時だった。瑠奈はこの家で子供を産んで育てていくことに希望を見いだせなかった。

瑠奈は正志に言った。

「これ以上、義母さんと一緒の家に住めない。まだお腹が小さいうちに引っ越したい」

正志は思いとどまらせようとしたが、瑠奈の意志は固かった。

「この家に住みつづけるなら、赤ちゃんは産みたくない。中絶させて」

さすがに正志も引っ越しを決断せざるをえなかった。新たに住んだのは、同じ町内のマンションだった。

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