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みずほ・三菱・三井住友…メガバンクの「支店長」が消滅する日

判を押すだけの「エリート」は消える

銀行員の出世の象徴だった支店長。いまその待遇や働き方が想像を絶するほどに激変している。安定、高給の人気職種だったのはもう昔の話だ。エリートバンカーたちの戸惑いと混乱の現場レポート。

支店長自らフロアで接客

〈銀行の場合、ビルの1階に店舗が入居しているのが一般的である。2階、3階というケースもあるが、それは1階が個人顧客の窓口フロアであり、2階は法人顧客のフロアなどとして使用されていることが多い。(中略)

ところが、三井住友銀行の中野坂上支店は、11階という上層階である。この一点だけをみても、従来型とは明らかに違っている。(中略)

もっとも、驚きという意味では、これは序の口にすぎなかった。11階でエレベーターを降りて店舗に入った瞬間、眼前に広がる中野坂上支店のフロアは、いままで見たことがないような光景だったからだ。

もし、銀行であるとの認識を持たずに足を踏み入れたら、一瞬、いったい、いかなる職種のフロアなのか、わからないにちがいない〉

 

支店長は3日やったらやめられない。銀行界ではそう言われてきた。

地元の名士として政財界から歓待されるのは当たり前。職場では専用の「支店長室」が与えられ、多くの部下を束ねる一国一城の主として振る舞える。だから一度やるとやめられないし、何度もやりたくなる――。

そんな憧れの仕事である「銀行支店長」の仕事がいま、大きく様変わりしようとしていることをご存じだろうか。

たとえば、メガバンクの三井住友銀行。冒頭で紹介したその中野坂上支店は、支店そのものからして従来の銀行像から想像もできない姿に変貌している。

同支店の様子をレポートした話題の書『銀行員はどう生きるか』は、その驚きの実態を、さらに次のように詳述する。

〈そもそも、伝統的な「銀行らしさ」は皆無に近い。まず、女性行員たちが並んで顧客対応する窓口=カウンターがないのだ。カウンターによってフロアは二分されておらず、カウンター後方に広がる事務フロアもない〉

実際、本誌記者が訪ねると、その風景は異様そのもの。銀行の支店といえば、カウンターに窓口担当行員が並んで接客。その後ろに書類確認などをする事務行員が居並ぶのが普通だが、そうした行員たちがほとんど「いない」のである。

さらに驚きなのは、銀行の支店に入ると、振り込み用紙、送金依頼書などが置かれていて、来店客はまずその記入を求められるものだが、中野坂上支店ではそうした用紙すら置かれていない。

〈訪れた顧客は入口を入ってすぐの総合受付で用件を伝え、キャッシュカードを持参していれば、そこでカードを読み取り機に当てる。すると、担当者が用件別に案内してくれる。(中略)

そこにいる行員に用件を具体的に伝えれば、パソコンのキーボードに打ち込んでいく。来店客が用紙に記入する必要はなく、氏名や金額等の表示内容に間違いがないか、確認するだけである。

あとは印鑑を所定の電子パネルに当てる。断っておくが、印鑑を朱肉に付けて用紙に押印する作業は一切なし。これで瞬く間に用件が済んでしまう〉

つまり、ほとんどペーパーレス。「中野坂上支店はデジタル化が徹底されているんです」と、同書著者で経済ジャーナリストの浪川攻氏は言う。

「顧客は支店に行くと、必要なデータを伝えるだけ。すると、入力されたデータが事務センターに送信されて、口座番号、印鑑登録などをほぼリアルタイムで照合してくれるわけです。

これまでは事務行員が事務センターにいちいち確認して時間がかかっていたのが、中野坂上支店では一瞬でデジタル処理されるので顧客はほとんど待たされることもありません」

従来は「バック」と呼ばれる事務行員が行っていた作業が、最新鋭のデジタル技術に代替された。結果として、カウンターの向こう側にズラリと並んでいた行員たちがそのまま「消えた」のだ。

当然、そうした行員たちを束ねていた支店長の仕事ぶりも変化を余儀なくされているのだが、その変わり様は想像を絶する。浪川氏が続ける。

「私が中野坂上支店を訪ねた時、ロビーに立って、来店客に気を配っている女性がいたのですが、なんとそれが支店長だったのです。正直、これには驚きました。

来店客から見えない店舗の一番奥まったところに座っているのが伝統的な支店長像なのに、みずからフロアの先頭で接客していた。まるで百貨店のフロアマネジャーのようなのです」

「第二の職場」も奪い合い

支店長は外回りの仕事をしているとき以外、営業時間中はそうしてロビーで顧客対応をしているという。

「しかも、支店長室はどこかと聞くと、『ありません』と言う。では支店長はどこで事務作業を行うのかといえば、顧客フロアにあるドアを開けた間仕切りの先、ほかの行員たちのデスクが並べられているうちのひとつが支店長のデスクだった。

それは、銀行員が『いつかなりたい』と願う支店長像とはほど遠いものでした」(前出・浪川氏)

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