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がんを発見する線虫も登場…最先端「虫医療」の世界

覆面ドクターのないしょ話 第16回
ハエ、蚊、ゴキブリ……。現代人には忌み嫌われている虫たちだが、最先端医療の世界では、一部の「虫」たちの存在によって、新たな治療法や疾病の発見方法が開発されているという。「虫」たちの持つ能力は驚異的だが、それ以上に、その能力に気づき、医療に活用しようとした研究者たちの発想こそ最も驚異的かもしれない(虫といっても、ここでいう「虫」とは昆虫だけのことではなく、古来より「虫」と言い慣らわされてきた、人、獣、鳥、魚以外の小動物を指します)。

ハエの子供が傷を治すのに役立つ!

2018年の春は、4月に一部地域で早くも真夏日(30℃以上)を観測した。今週は猛暑日(35℃以上)を予想される地域もあるらしい。暖かくなると動き出すのは人も虫も同じ。読者の皆様、レジャーでお出かけになった際、虫に刺されたり、ヒルに血を吸われたりした経験はありませんか?

気温が上がると、自宅の食卓にもプ~ンと小蝿が飛んできたりもする。「五月蝿」と書いて「うるさい」と読む。何かとうっとうしくて厄介者扱いの虫ではあるが、しっかり先進医療で活躍している虫も存在する。本日は役に立つ虫の活躍ぶりを紹介いたします。

 

自宅でごはんを食べていると、うっとうしいのが小蝿。小蝿のうち、ショウジョウバエは研究に適した材料で、昔から染色体やDNAの研究にしばしば用いられてきた。

だが、いくら研究でショウジョウバエが役立つとはいっても、庶民感覚では蝿に感謝する気持ちにはなりにくい。蝿が治療に役に立つわけじゃないでしょ……。

ところが、なんと、役に立つやつがいるんです! 実は蝿の幼虫の蛆(うじ)は傷を治すのに役立つのである。

近年、糖尿病患者は増加の一途をたどっている。日本の糖尿病患者数は、1000万人を超え、糖尿病の疑いのある患者数も含めると2000万人に上る。

糖尿病の大きな合併症の一つが、「糖尿病性足病変」である。糖尿病で動脈硬化が進行し、下肢の血行が悪化した結果、足がただれて潰瘍になってしまったり、壊死してしまったりする病態である。

糖尿病の患者さんの足に潰瘍ができたり、足が壊死してしまったりすると、傷の治りが非常に悪い。手術する場合は、壊死した部位を切除する。また足全体や下腿にまで壊死が及べば、残念ながら切断せざるをえない。

ところが、糖尿病の影響で心臓の機能が低下していると、手術自体できないことがある。あるいは、手術したにもかかわらず、壊死が再発してしまうこともある。そんなときに役に立つのが蛆なのだ。蛆のことを英語でマゴット(maggot)といい、蛆を用いた治療法をマゴット・セラピーという。

マゴット・セラピーは、実は大変古典的な治療法で、数千年前から世界各地の伝統医学として行われてきた記録が残っている。

マゴットを傷に乗せると、腐った組織=壊死組織だけを溶かして食べてくれるのだ! しかも健常な組織は食べない。壊死組織が減少すると、皮膚の成長も促進される。また皮膚欠損が大きい場合でも、創面が改善されれば皮膚移植で欠損部を閉鎖することもできるようになる。マゴットは素晴らしい!

太平洋戦争中、負傷して治療が受けられなかった兵隊のうち、傷口に蛆がわいた者のほうが生存率が高かったという証言もある(photo by gettyimages)

読者の皆様、蛆=マゴットを医療に使って衛生的に大丈夫なのかという素朴な疑問をお持ちなのではないでしょうか? 実際には、無菌状態で繁殖させた、清潔なマゴットを使っているから大丈夫なんです。医療企業で育てられた「ヒロズキンバエ」のマゴットが医療現場では用いられている。「安心してください! 清潔ですから」(このギャグ、ちょっと古いか…)。

一方で、保険が利かない、治療中にマゴットが逃げ出すこともある、といった問題点もある。また医学的根拠のある治療でも、患者さんにとってはマゴットに対して、気分的に抵抗があるはずだ。主治医の説明をよく聞いて、納得の上で治療を受けていただきたい。

いかがでしょう? 少しは蝿やマゴットに対する印象が変わりましたでしょうか?