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40年以上未解決だった性的暴行事件が、4ヵ月で解決した驚きの理由

遺伝子データベースの衝撃

米カリフォルニア州で、40年以上も未解決となっていた連続殺人・性的暴行事件があった。これに対し、同州の警官が最近、ブームになっている遺伝子検査に基づく家系図データベースを捜査に導入したところ、僅か4ヵ月で容疑者が逮捕され話題となっている。

残忍かつ挑発的な連続殺人事件

この連続事件では1976~86年にかけて、少なくとも50人の女性が性的暴行を受け、それに伴い12人の男女が殺害された。

生存者の証言などから、一連の事件は同一人物による犯行と見られた。犯人の男は常にスキー用のマスクで顔を覆い、銃を所持していた。素早く相手を縛り上げてから犯行に及び、時には犯行を中断して飲食するなど、呆れるほど冷酷で落ち着き払っていた。

この男はやがて、(カリフォルニア州の別名に因んで)「Golden State Killer:黄金州の殺人犯」と呼ばれるようになった。

 

その手口は残忍であると共に挑発的だった。当初、犯人は夫の留守中にその妻を狙っていたが、これを新聞などメディアが報じると、それ以降は敢えて夫婦共に在宅中の家に侵入し、夫を縛り上げ、その目の前で妻を暴行して殺すようになった。

こうした犯行の手口が(ある意味)余りにも水際立っていたため、捜査に当たった警官たちは、ひょっとして自分たちの身内、つまり武術や護身術のトレーニングを積んだ警官による犯行ではないかと疑い始めた。その後、同様の事件が度重なるうちに、警察内部の捜査情報が犯人に漏れている節が見受けられるようになると、警官らが抱いていた疑念は確信へと変わった。

事件現場に残されていた犯人の体液等からDNA鑑定が可能であったため、カリフォルニア州の男性警官の中には、身の潔白を証明するために、自ら進んでDNA鑑定を受ける者も少なくなかった。

一方、同州の住人たちは長引く事件に恐怖を募らせていったが、1986年を境に犯行はバタリと止んだ。「犯人が怪我か病気で体力が衰えたために、犯行を諦めたのではないか」と推測する警官もいたが、真の理由は不明だった。

迷宮入り寸前の「打開策」

事件の捜査はそれ以降も続いたが、解決へと導く糸口は一向に見つからなかった。

長い歳月が流れ、当初の捜査に当たった警官らの中には、高齢などから退職する者も増えてきた。「もう駄目か…」と誰もが諦めかけた頃、一人の警官が思いがけないアイディアを出した。

それは「GEDmatch」と呼ばれる、インターネット上の家系図サイトを捜査に導入することだった。ボランティアが運営する同サイトは、多数のユーザーの遺伝子検査データを解析して、その先祖や(知られていない、あるいは隠された)親族関係などを洗い出す。このサービスは誰もが無料で利用できる。

ただし、このボランティア・サイト自体は遺伝子検査を手掛けていない。

検査を実施しているのは「23andMe」のような民間業者(企業)だ。彼らが提供する遺伝子検査サービスでは、100~200ドル(1万~2万円)の料金で、ユーザーの唾液に含まれるDNA(遺伝子)を測定・分析する。

そこから何らかの遺伝性疾患リスク、あるいは「肥満」や「高血圧」など生活習慣病へのかかり易さを判定する。さらにはユーザーの先祖・親族関係なども洗い出し、これらの情報をまとめてユーザーに提供する。

これに対し、GEDmatchのようなボランティア・サービスでは、23andMeなど業者による遺伝子検査のデータ(DNAデータ)をそのユーザーから提供してもらい、これを二次解析することによって、ユーザーの先祖・親族関係を割り出す。この情報が蓄積されると、多数のユーザーから寄せられたDNAデータに基づく家系図データベースが構築される。

(前述のように)23andMeのような業者も先祖・親族関係など家系図データベースを提供しているが、実は(図1のように)GEDmatchの方が利用者が多く、規模も大きいので、いわゆるネットワーク効果によって、より広範囲の親族関係や先祖を洗い出すことができる。だからユーザーは敢えて、このようなボランティア・サイトにも自らのDNAデータを提供するのだ。

図1)米国の遺伝子検査関連サービス5サイトのユーザー数推移 出典:http://thednageek.com/dna-tests