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雇用が大幅に改善しているのに、なぜインフレ率は低迷したままなのか

難解な経済のパズルを読み解く

インフレ率のパズル

今年に入ってからますます雇用環境の改善が加速している。例えば、3月の有効求人倍率は1.59倍、新規求人倍率は2.41倍であった。

有効求人倍率は1974年1月以来、新規求人倍率は1963年の調査開始以来、最も高い水準にある。また、3月の完全失業率は2.5%だったが、昨年12月以降、歴史的な低水準を続けている。

リフレ派界隈では、「NAIRU(インフレを加速させない最も低い失業率の水準)」は2.5%近傍だという声が強いが、完全失業率は既に3ヵ月連続でNAIRUの水準に位置している(ちなみに反リフレ界隈では3.5%だったので最近はこの手の話に触れたがらない)。多少の誤差を考えても、インフレ率は加速度的に上昇してもおかしくないはずである。

 

そのインフレ率であるが、「生鮮食品、エネルギーを除く総合指数」でみた3月の全国消費者物価指数(CPI)は前年比+0.5%の上昇にとどまっている。

さらにいえば、全国のCPIの先行指標的な意味合いを持つ4月中旬時点の東京都区部の同指数は前年比+0.3%と、3月の+0.5%から減速した。このような「加速度的な雇用の改善と低迷するインフレ率」の組合せは、一種の「パズル(謎)」と言ってよいだろう。

この「パズル」について、筆者は、以前の当コラムで、3つの仮説を提示している。

第一の仮説は、「Discouraged Worker(職探しを放棄してしまっていた無業者)」の存在。第二の仮説は、「フィリップス曲線(縦軸にインフレ率、横軸に失業率をとって、両者の関係をプロットしたもの)」のシフト、特に、金融政策スタンスによる「期待」のシフト。第三の仮説は、そもそも「NAIRU」は存在しない、というものである。

ここでは、第一の仮説を考える。結論から先にいえば、第一の仮説は棄却された可能性があるということである。

労働参加率急上昇の原因

まず、ここでいう「Discouraged Worker」とは、長引くデフレによって、失職したり、卒業後に就職できなかった人々が、労働意欲を喪失し、求職活動を放棄してしまった状況を指す。

統計上、「失業者」とはハローワークで求職活動を行った者のことを指すため、「Discouraged Worker」は失業者にカウントされない。彼らは、「無業者」として、「非労働力人口」にカウントされる。

ただし、「非労働力人口」の中には、既に引退した高齢者や専業主婦、及び学生などが含まれるため、「非労働力人口」の数字だけでは、「Discouraged Worker」の数を把握することは困難である。また、家計を支えなければならない事情を抱えている主婦もいれば、就職がなく大学院に進学した学生もいることが想定されるため、「非労働力人口」を専業主婦、学生、「Discouraged Worker」に明確に分類することもできない。

ところで、就業者(働いている人)と失業者(求職活動をしている人)の合計が生産年齢人口(15歳以上人口)に占める割合のことを「労働参加率」という。

日本の場合、大手金融機関の破綻が断続的に発生した1990年代終盤以降、労働参加率は急低下している。したがって、1990年代終盤以降の労働参加率の急低下は、「Discouraged Worker」の増加を如実に示していると考える(もちろん、高齢化の影響も考慮する必要がある)。