動き出した「官製ファンド」
産業革新機構の大盤振る舞い

官民合わせて1兆円を出資

 改正産業再生法に基づく株式会社として昨年7月設立され、「官民出資の1兆円ファンド」という頼もしい呼び名のある「産業革新機構」が、最近、元気だ。

 初案件としてアルプス電気が事業分割で設立する新会社に30億円の出資を決めたのが3月31日。設立から8ヵ月、眠りから覚めたような出資だった。そしてゴールデンウィークが明けると、それまでの"鬱憤"を晴らすようなニュースリリースが続く。

 5月6日、小型風力発電機の専業ベンチャーであるゼファーの第三者割当増資を引き受け、10億円の投資を行うことを決めた。10日には、次世代型フラッシュメモリの開発ベンチャーであるGENUSION(ジェニュージョン)に26億円の融資枠を設定、当面、16億円の投資を行うことを決めた。

 また同日、三菱商事など民間3社と共同で、オーストラリア2位の水道事業会社を190億円で買収することを明らかにした。出資比率は三菱商事が47.3%で産業革新機構が30%である。

 筆者は、初案件が決まる直前の3月20日に発売された会員制月刊誌の『FACTA』(4月号)に、1件の実績もない「官製ファンド」の産業再生機構という存在そのものに疑義を呈し、「事業仕分けの対象にしたらどうか」と、枝野幸男行政刷新相に呼びかけた。

 同誌の阿部重夫編集長は、その記事に「『穀つぶし』産業革新機構の大罪」という過激な見出しをつけたのである。その時点では投資案件もなく、ホームページには3ヵ月以上もニュースリリースがなかった。

 その後、『日経ビジネスオンライン』(4月1日)や『東洋経済オンライン』(4月20日)などにも同様の趣旨の記事がアップされた。

 マスコミからの集中攻撃的な「穀つぶし批判」が堪えたわけではないだろうが、いまや様変わりの華々しさだ。

 しかし、だからといって、産業革新機構という存在に対する違和感は消えない。

 08年秋のリーマン・ショックを契機とする金融恐慌で、民間金融機関の融資の蛇口はいっせいに閉まった。ここは政府の出番だとして、財務省は日本政策投資銀行の民営化を阻止、「危機対応資金」をふんだんに与えて、傷ついた大企業から中堅企業までを救った。

 「遅れてはならじ」と、経済産業省が仕掛けたのが、経営難に陥った企業の再生支援を行う「企業再生支援機構」と、新たな成長産業を育成する産業革新機構の設立である。前者は日本航空やウィルコムを引き受けて存在感をアピールしたが、後者は鳴かず飛ばずで、年収2000万円クラスの高給取りが、40人以上も遊んでいる印象だった。

 無理もない。老舗のベンチャーキャピタルですら優良ベンチャーを探すのに苦労している。政府出資が820億円、民間企業が19社で100億円、さらに機構が金融機関から資金調達する際、最大で8000億円の保証がなされるような「巨艦ファンド」に、活躍の場があろうはずがない。

オーストラリアの水道事業に融資

 本来、政府の仕事は、民間では手を出せないが、国の将来にとっては必要だという分野への投融資であろう。だからこそ、ときには赤字でも認められる。ところが、産業革新機構には株式会社という"縛り"がかかっていて、採算を重視せざるをえない。

 採算を重視しながら、次の三つを事業の柱としていた。

(1)産業を革新するようなベンチャー投資、
(2)特許の事業化の促進、
(3)大企業の技術部門の再編支援――。

 こんな絵に描いた餅のような事業計画で、カネだけは集めて「1兆円ファンド」としてスタート、採算にも乗せるというのだから無理な話だ。勢い、リスクの高いベンチャー投資を避け、事業の確実な安定性を求めれば、普通のファンドと変わりはない。そのジレンマが、「音無しの8ヵ月」につながった。

 最初の案件となったのは東証一部上場企業のアルプス電気と共同出資、電気自動車や次世代送電網などに組み込む電子部品を手がける会社を設立する。アルプス電気の片岡政隆社長が、「機構の支援がなくとも事業化を選んだ。単独で行うことも選択肢としてはあった」と、語るほどありがたみのない出資である。ここでも存在意義が問われた。

 それだけに第二弾の風力開発ベンチャー、第三段のフラッシュメモリベンチャーへの投資は独自性を出した。第四弾は、オーストラリア水道事業への出資。政府はインフラ輸出を成長戦略の柱に据えようとしている。自民党時代に企画されたファンドが、今度は新政権の政策にすり寄っている印象を受ける。

 民間企業の出資にゲタを履かせるために1兆円が使われるのでは意味がない。ベンチャーを育成し、長い目で見た産業の革新、育成につなげるという道のりまではかなり遠い。

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