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Amazon、TSUTAYAに負けない「賑やかな」図書館の可能性

「高価な貸本屋」のままでは未来がない
伊藤 麻理 プロフィール

本当はみんな、学びたがっている

フリースペース+図書館のアイディアは、実は地元住民から生まれたものです。

2007年から黒磯駅前を活性化させようと、那須塩原市の市民グループ『えきっぷくろいそ』(前身:黒磯駅前活性化委員会)が活動しています。2014年には俳優の伊勢谷友介さん率いるリバースプロジェクトと一緒に『まちづくり市民投票』を行って、黒磯駅前活性化のアイディアを募るほどアクティブだったんですね。

活動の中で「交流センターみたいな図書館がいいんじゃないか」という結論に行きつき、市に提案したところ、晴れて補助金を獲得し、コンペに上がったのです。

そんな背景から「図書館でしたいこと」をワークショップでヒアリングすると、市民のモチベーションが高いことがわかりました。

高校生からは「放課後勉強を教え合いたい」、「デジタルを使ったプレゼンテーションの練習をしたい」、または「友人とハーバード大学のオンライン授業を見て議論したい」などの声が。

「え、今の学生ってこんなに意識高いの?」って(笑)。私が高校生のときは友人と遊んでいた記憶しかなかったため、学生への固定概念が崩されました。

子育て中のママからも、在宅で東京から仕事を受注できるようにCADやプログラミングを学びたいという要望がありました。

東京では関連のスクールは沢山ありますが、地方はあっても遠く、一人で学ぶには限界があります。場所も、お金のかかるレンタルスペースや学校の空いている教室もありますが“気軽に誰でも”というわけにはいかず、断念することが多い……。

ネットで情報を早く手に入れられるのに、実際に行動に移したり、友人と共有したりする場所がないジレンマを抱えていたのです。

提案設計図には、個々の空間の利用方法が小さく記されている(筆者提供)
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図書館は元々誰でも平等に知識を得られる場所としてつくられています。今後はただ資料を貸すだけではなく、学びの活動を促すような施設になるべきではないか。静かな図書館はもう時代遅れで、これからは「会話」が学びの重要な要素となります。

もちろん、静かに本を読みたい人もいるので、フリースペースと従来の静かな空間は別々に設けますが、基本は賑やかでいいと考えています。

ただ、なによりも人が集まりやすい場所ではないといけません。黒磯駅前という好立地ですが、目的をもって訪れるよりも、もっと日常生活の中の通り道になるように設計すれば、自ずと人が寄りつき利用しやすくなるのではないかと考え、設計に起こしました。

5000平米の巨大な施設には「通り抜け」の道があり、毎日気軽に立ち寄れる(筆者提供)
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世界初の試み「SIB×図書館」の可能性

しかし、これだけ利用プログラムを提案しても仕事の範疇外とされ、運営面への増資には口を出すことができません。日本で考えられている設計者の仕事とは、与えられた予算内で土地、建築条件に最適な外側のハコを提案することなのです。

ではレンタル1冊当たり500円の割高なコスト問題をクリアし、地元住民の希望を叶えるにはどうしたらいいか。

そこで設計と一緒に自治体に提案しているのが、SIB(Social Impact Bond)という、民間資金を活用した官民連携による社会解決の仕組みです。