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日本に建設予定「国際リニアコライダー」とは何か

宇宙の謎を解明する切り札

宇宙の仕組みを解き明かす

「車椅子の物理学者」として有名なスティーヴン・ホーキング博士が、3月14日に76歳で亡くなった。町の本屋さんでは、にわかにホーキング博士コーナーが設けられ、たくさんの著作が並べられている。ホーキング博士の語る宇宙論を聞き、あるいは著作を読んで、さぞかし多くのひとびとが宇宙に興味を抱いたことだろう。

「宇宙はどのようにして生まれたのか」「物質は何からできているのか」。1916年にアインシュタインが一般相対性理論を発表してから100年たつが、宇宙にはまだ解明されていない多くの謎がのこされており、興味がつきない。

人類が宇宙を理解するには、2つのことが必要となる。1つは宇宙自体を観測しその実際の様子を調べることであり、もう1つが宇宙の仕組み=自然の仕組みの源を知ることである。この2つは古代から、宗教や自然哲学として人の考え方や生き方に大きな影響を与え続け、今ではその仕組みを使った電子部品や医療などさまざまな技術が生活を支えている。

宇宙、そして我々自体の身の回りの全てのことは、共通の自然法則で成り立っていると考えられている。それは時間と空間の性質、物質とその反応全てを決める基本法則で説明がつくはずだ。それを研究するのが素粒子物理学である。

一方、望遠鏡や人工衛星などにより宇宙を観測するのが天文学である。最近では、アインシュタインの最後の宿題といわれた重力波(重力の影響で周囲の空間にゆがみが生じ、波紋のように遠くまで光速で伝わっていく現象)が、2015年米国のレーザー干渉計LIGO(ライゴ)により初めて観測されたことは記憶に新しい。

素粒子物理学でこれまで理解された自然の基本法則、一般相対性理論、天文学での観測データを組み合わせて、宇宙全体の大きな構造などを理解する研究は宇宙物理学と呼ばれる。

LIGO
  米国ワシントン州リッチランドにある、レーザー干渉計重力波天文台(LIGO)への入り口 photo by gettyimages

宇宙誕生を地上で再現

素粒子物理学の最先端では、「コライダー」と呼ばれる装置により、原始の宇宙の再現を行うことで、自然の最も基本的な仕組みに迫ることが実際に行われている。

コライダーは、衝突(collide)させる装置、という意味だ。電波や可視光、X線といった電磁波による望遠鏡では観測できない、ビッグバンから始まる宇宙創成期の状態を実験的に地上で再現することができる。

高電圧をかけて光速度近くまで加速した電子や陽子などを正面衝突させると、膨大な衝突エネルギーが発生する。その際、エネルギーが物質に転換され、新しい物質が生まれるのを観察する。

初めてのコライダーは1970年代に開発され、世界ではこれまで米国・欧州・日本・中国に設置されてきた。物質の最小単位である素粒子を次々と発見し、宇宙の仕組みを「標準理論」と呼ばれる法則にまで絞り込んできた。

これまでのほとんど全てのコライダーは円形である。同じ円周上を互いの粒子を逆回りに加速させ、数ヵ所で衝突させる。最大のものは、山手線に匹敵する周長27kmに及ぶ欧州原子核研究機構(CERN)の大型陽子・陽子衝突型加速器(LHC:Large Hadron Collider)である。

ヒッグス粒子を大量に生み出す「リニアコライダー」

1964年にピーター・ヒッグス博士が提唱した「素粒子に質量をあたえる機構」によって存在が予言されていた「ヒッグス粒子」が、2012年にLHCで発見された。

LHC
  2013年11月ロンドンで開催された'Collider'展示会でのLHCの映像 photo by gettyimages

ビッグバンで超高温・超高密度の火の玉となった宇宙が膨張して温度が下がり、相転移(南部陽一郎博士が提唱した「真空の自発的対称性の破れ」)が起こって、一気に宇宙にヒッグス粒子がぎっしりと詰まった状態(ヒッグス場)になった

このヒッグス場がまとわりつくことで、電子など素粒子は動きにくくなり、質量がうまれたという。その結果、質量をもった素粒子があつまって原子核や原子ができ、物質や星、銀河がうまれた。そして我々の生命もうまれたことから、ヒッグス粒子は時に「神の粒子」と呼ばれる。

「標準理論」までたどり着いた素粒子物理は、ここにきて一気にまた飛躍する段階にきているという。標準理論は不完全であり、宇宙物理学からは標準理論では説明できない正体不明の暗黒物質と暗黒エネルギーが宇宙を満たしていることもわかってきた。

本当の自然の仕組みは何なのか、暗黒物質は何なのか、宇宙には四次元を超える時空があるのか──これらに正面から向かい合うことができる現代の最適なツールが、この発見されたばかりのヒッグス粒子であると考えられている。

ヒッグス粒子は、宇宙の仕組みが何なのかによって変わる特別なパターンをもっている。このパターンを精密に調べれば、宇宙のおおもとにある仕組み自体がわかってしまうという、特別な性質を持つ素粒子なのだ。

ただし、そのためにはヒッグス粒子を大量につくりつづけ、その膨大なデータから必要なパターン情報を取り出せなければならない。そこで、陽子同士を加速・衝突させるLHC型ではない、電子・陽電子衝突でのコライダーが必要となるが、円形では周長100kmにもなってしまう。電子・陽電子を円形加速器で加速すると、放射光を発してエネルギーロスを生じ、衝突エネルギーを上げられなくなってしまうからだ。

そこで注目を浴びているのが、世界の素粒子研究所の代表組織である「国際将来加速器委員会(ICFA)」が計画推進している超大型線形加速器実験設備「国際リニアコライダー(ILC : International Linear Collider)」だ。

ILCは、全長20kmの地下トンネルに超伝導加速器を直線状に配置、電子と陽電子を衝突させ、そこから噴出するさまざまな粒子を精密に観測し、1000を超える研究を同時に行える。もちろん最初に狙うのは、ヒッグス粒子を用いた「宇宙の法則の決定」だ。

しかも将来的に直線部分を延伸させて性能をさらに飛躍させることもできる。これまでにない将来性を併せ持つ施設である。ヒッグス粒子の質量が125ギガ電子ボルト(ギガは10億)であったことから、ヒッグス粒子を最も効率的に生成できる250ギガ電子ボルトに合わせ20kmの「ヒッグス・ファクトリー」が誕生することになる。

ILCの最大の目標は、生成されるヒッグス粒子の量と普通の素粒子に壊れる様子を精密かつ膨大に観測して、

  • 宇宙が美しい仕組み(「超対称性」という)でできているのか
  • それとも四次元を超える五次元の世界(パラレルワールドやワープがある世界)があるのか
  • 今の素粒子と思われているものよりもさらに小さな世界があるのか
  • または我々の宇宙は偶然の産物で、たくさんある宇宙の中の「特別な宇宙」にいるだけなのか

を決定することだ。さらに、自然の法則の決定から、暗黒物質の正体も同時に決定できるかもしれない。たとえば「超対称性」宇宙なら、その仕組みから暗黒物質が生まれる。

世界中の素粒子物理学者が日本に集結

我が国の素粒子物理学者と加速器研究者たちは、2004年にICFAから「国際リニアコライダー計画」が公表されるや、本プロジェクトを日本の主導のもとに日本で実現すべく奔走し、あとは日本政府の正式承認を待つところまで漕ぎつけている。

承認されれば、世界から拠出される資金で建設・運営される、日本・アジアで初の大型「国際科学研究機構」が、建設候補地となっている東北・北上山地に誕生する。ILCが完成する2030年ころには、世界の素粒子物理学研究者が集う科学の一大拠点になるだろう。そこで宇宙の謎が解き明かされれば、次々とノーベル賞を受賞することも夢ではない。

世界的なビッグプロジェクトだけに、費用も莫大だ。海外からの供出額が半分程度をしめるとはいえ、それでも日本は建設期間の約10年間で毎年200億円から300億円の資金(税金)を投じる必要がある。ILC日本誘致実現のためには、何よりも納税者である国民の理解と応援が必要となる。国民の支持を得て、2018年中にも日本政府が建設に向けた海外との協議に前向きの意向を示せば、海外は一緒に動いてくれる。

「日本発宇宙行きの『国際リニアコライダー』」が発進できるかどうか、素粒子物理学のビッグプロジェクトが今まさに正念場を迎えている。ILCという宇宙の謎の扉をひらく鍵は、われわれ日本の国民の手に委ねられている。

★『日本発宇宙行き「国際リニアコライダー」

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宇宙の謎を解き明かす超大型粒子加速器の建設に邁進する1人の若き素粒子物理学者と大政治家与謝野馨のストーリー。次世代のこどもたちのために、与謝野馨の檄がとぶ!「物事を成すにウルトラCは無い。王道を着実に歩め。国際リニアコライダーは、日本がやるべきだ!」チャレンジへの勇気をもらえる1冊!