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トランプの「意外に鮮やかな外交手腕」、あの大統領にそっくりだ

スキャンダルが付きまとう点も似ている
松尾 文夫 プロフィール

金正恩も相当にしたたか

このトランプ側に対抗するように、34歳の金正恩委員長も極めてしたたかな現実主義を見せている。

南北首脳会談直前の4月20日党中央委員会総会を開き、「我々にはいかなる核実験、中長距離ミサイル、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射も必要なくなった」との「核ミサイル国家」樹立の成功を宣言し、今後の経済改善政策への集中への転換を表明し、あえてトランプの懐に飛び込む発言を行った。

会談後はあっという間に、北朝鮮と韓国の間の30分の時差を5月5日から韓国に合わせた。続いて、世界卓球大会でも南北合同チームを結成、更にソウルとの定期便の就航打診など、矢継ぎ早に南北の和解の実践策を打ち出している。

それにトランプとの首脳会談を前に、ぎくしゃくしていた中国との関係を電撃的な習近平との初めての北京での首脳会談、さらにその1ヵ月後の大連での2回目の会談で一気に改善、非核プロセスをめぐるトランプとのシンガポールでの「ディール」のプロセスで「北の保護者」として巻き込むことにも成功した。

オバマ政権時代に東アジア担当国務次官補を務めたダニエル・R・ラッセル氏は、金正恩について、「巧みな役者だ。今度の首脳会談は金正恩のショーとなる」とニューヨークタイムズ紙に語っている。ワシントンの外交専門家の間では、これまで見てきた金正恩の外交手腕は、父親の金正日、祖父の金日成をも上回るとの評価がある。

今秋には平壌訪問することが決まっている文大統領を、この南北和解の「仲介者」として持ち上げるのみならず、この平壌訪問予定で、アメリカとの約束の「人質」化をはかる芸の細かさである。

3人のアメリカ人抑留者の釈放も「トランプへのアメリカ」への最大のプレゼントとして用意されていた。韓国もこれに応じ、国内保守派のデモを機動隊で押さえつけながら、北朝鮮向け宣伝放送のスピーカーの撤去に踏み切っている。

日本拉致問題への協力は、南北首脳会談での安倍首相の斡旋要求に対し、文大統領からは金委員長は「日本からの対話に応じる」との「伝言」が伝わっているという。

しかし突き詰めると、日本との国交正常化交渉となった場合、1965年の日韓国交正常化時の「経済協力金」8億ドルの同等の規模ということで、現在の貨幣価値に直して50億から100億ドルの経済支援となる事実が、彼の頭の中にあることも忘れてはならない。

 

絶対に失敗できないトランプの事情

ただしこのニクソンとの相似性はいいことだけではない。中間選挙戦を控えたトランプ政権の足元に「ロシアゲート」の不気味な影がしのび寄っていることも指摘しておかねばならない。

ニクソンのウォーターゲート事件での失脚を意識してか、トランプは、マーラー特別検察官の首を切りたいという「本心」をちらつかせているものの、この事件の前例もあり、更迭には踏み切れず、最近ではマーラー特別検察官による顧問弁護士宅への強制捜査、更にはプレイボーイ誌を飾った元ポルノ映画女優に対する13万ドルへの口止め料としての支払いを認めざるを得ないところまで追い詰められている。

ホワイトハウス内に特別の側近としてオフィスを与えた、三女のイバンカとクシュナーの夫妻の存在も最近では、クシュナーが依然として、イスラエルとの関係で、ホワイトハウス内でのセキュリティクリアランスを終えていないことが暴露されるなど、影響力を失ってきている。

したがって、トランプにとっては金正恩との会談に応じること自体が失敗を許されない「事態」となっているともいえる。

折から既に始まっている中間選挙戦では、与党共和党の劣勢が、伝統的に中間選挙では大統領与党が不利というレベルを超えている。上院のみならず、下院でも共和党は多数党の地位からの転落する可能性を予想する調査も出ている。

あのニクソンが、ウォーターゲート事件の盗聴実行犯グループ「鉛管工グループ」の組織を命じるのは、彼にとって「栄光」の瞬間であった歴史的な訪中発表の2日後であった。

外交での大ディールと国内での逆風という、ニクソンとトランプの共通点。歴史は常にアイロニーに充ち満ちている。

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