国際・外交 アメリカ 北朝鮮

トランプの「意外に鮮やかな外交手腕」、あの大統領にそっくりだ

スキャンダルが付きまとう点も似ている
松尾 文夫 プロフィール

ニクソン・トランプの共通点、現実主義

トランプは、連邦政府からの給料を一切もらったことのないアメリカ史上初めての特異な大統領である。

「ディール」一筋の不動産業者として四回の破産も乗り越えて成功し、「お前は馘首だ」を連発するサディスティックなテレビ番組の司会者としても名を売った上で、「アメリカ第一主義」のスローガンでプア・ホワイトの心をつかみ、大逆転でホワイトハウスの主に収まった。

私はここで60年代後半に指導を受けた社会心理学者、故ディビット・リースマン氏がニクソンについて「彼は案外いい大統領として歴史に名を残すことになるかもしれない。というのは、彼が第一級のオポチュニスト(機会主義者)としての腕前を持っていることだ」と、述べていたことを思い出す。

北朝鮮への制裁政策を自画自賛し、自らのディール能力を誇ってみせるトランプは、間違いなく「第一級のオポチュニスト」だと思う。

このニクソンとトランプの2人が共有する、アメリカ外交の伝統の1つの大きな柱である建前と本音を使い分ける現実主義に、目を向けておかねばならない。

そこでは、イデオロギー、さらにはアメリカ外交のもう1つの伝統である「人権尊重」と言った道徳主義、理想主義は棚上げされている。金正恩や毛沢東といった「独裁者」との「対話」の道も、決して閉ざさないアメリカのしたたかな現実主義の顔である。

アメリカの国内政治的を見ると、分かりやすい。

ニクソンは、従来、民主党の基盤であった南部の保守層を取り込む「南部戦略」で、当時は「声なき声の多数派」と呼ばれた白人保守層の支持を固めた上で、「毛沢東との握手」に踏み切った。

同じように、トランプも環境政策でのパリ協定離脱、移民問題での強硬姿勢、更にはイラン核合意からの離脱などなど、アメリカ第一主義の原点を再確認し、「独裁者」とのディールに向けた自らの国内支持層への地ならしは済ませている。

トランプは、政権担当2年目に入った途端、「ウマの合わない」あるいは「報告が長い」といった理由で、あっという間に国務長官のティラーソンや、国家安全保障担当大統領補佐官マクマスターを更迭した。

その後任に、ポンペオ氏、それからボルトン氏といった昔から「本音で話せる」信頼する保守派の人物に交代させ、自賛する自らのディール能力を信じて突き進む体制を確立している。

 

ポンペオはキッシンジャーか

ここで特に注目しておきたいのが、ポンペオ新国務長官の存在である。

トランプはかねてから信頼厚く、かつ直後に国務長官に任命するポンペオCIA長官を、4月末、密かに平壌に派遣し、金正恩と秘密裡に会談させた。そしてまた、それを自らツイッターで国民に知らせた。

この一幕に、ニクソン時代のキッシンジャーとのアナロジーを見いだす。同じ作風だと思う。

ポンペオは、5月9日には、再度平壌を訪れ、抑留されていた3人のアメリカを専用機に乗せて帰る任務をこなすと同時に、金正恩とも再度90分も会談した。

金正恩はこの会談で、受け取ったトランプからのメッセージを高く評価し、「2人の会談が朝鮮半島の肯定的な情勢発展を推進し、素晴らしい未来を建設するための第一歩を踏み出す歴史的な出会いとなるだろう」(10日の朝鮮中央通信)と、北朝鮮の公式メディアが初めて伝える結果を引き出した。

皮肉なことに、なぜか現場の外交官を蔑視した前エクソンCEOのティラーソン前国務長官の元で、士気が低下していた国務省は、陸軍士官学校出で下院議員歴もあるポンペオ新長官の元で元気を取りもどしたという。

ニューヨークタイムズを始めとする既成のマスコミの批判も「フェイクニュース」と切り捨て、フランクリン・D・ルーズベルト時代のラジオ、ジョン・F ・ケネディ時代のテレビのように、トランプは今、ツイッターという新兵器を見つけ、それを最大限使って建前と本音を巧みに使い分けることに成功している。

現時点で5000万人を超えるフォロワーという、潜在的な国内支持層の囲い込みを果たしつつある。

突き詰めると「安倍首相のゴルフだけがつなぐ」日本の対トランプ外交は、このすさまじいアメリカの現実主義の実態をもう一度噛み締めてみることである。

例えば、キッシンジャーを秘密交渉のために北京に送り込んだ直後の1971年、ニクソンは7月6日のカンザスシティーで演説を行い、「これからの世界は、アメリカ、ソ連、ヨーロッパ、日本、中国の5極体制になる」と述べ、中国指導者の琴線を揺さぶることに成功した。

同じように、トランプ大統領は、今では金正恩を「スマートクッキー(利口な人物)である」とぬけぬけと語るポンペオ・ルート、更には南北境界線上での金正恩委員長との「2人だけの44分間の対話」を全世界へのテレビ中継でさらすという離れ業を演じた文大統領とのルートを使って、事前折衝を行っている。

そこでは、米朝会談の最大の焦点である「完全かつ、検証可能で、不可逆的な核廃棄(CVID)」という米側の立場と、核廃棄へ段階的な「見返り」を求める北朝鮮との間で、玉虫色の「ディール」のすりあわせをかなり手中に納めている可能性は否定できない。

ポンペオは、11日の記者会見で金正恩に対し、「過去に敵対した国と友好関係を築いてきたアメリカの歴史」を強調し、激しい戦火を交えた日本との現在の同盟関係を実例としてあげた。

その中には、今年中とされた朝鮮戦争終結協定の交渉で、在韓米軍の一部撤収に応じる可能性も含まれるのだろう。

新メディア「現代新書」OPEN!