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「宿命」は変えられるのか?「脳は環境が作るか、遺伝子が作るか」問題

日本人の脳に迫る②

性格を決めるのは、環境か遺伝か……普通の人が考え抜いても答えの出ないこの「難問」に、脳科学の現場からはいくつもの「ヒント」が提示されています。『サイコパス』『シャーデンフロイデ』などのベストセラーの著者で、脳科学者の中野信子さんが「日本人の脳」について解説する連載第二回目では、この難問に迫ります――。

性格も遺伝で決まるのか

カエルの子はカエル、という言い方があります。フランス語にも同様の意味で使われるLes chiens ne font pas des chats(犬は猫を産まない)という表現が、英語にもLike father, like son(この親にしてこの子あり)という成句があります。いずれも「子どもは外見だけではなく嗜好や言動も親に似る」という意味を持った言い回しです。

こうしたフレーズが複数の国で、それぞれ独自の表現として成立してきた、ということは、同様の現象が洋の東西を問わず広く観察されてきたということを示すものでしょう。

子どもは両親の遺伝子を半分ずつ受け継いでいます。父母どちらから受け継いだものがより発現しやすいのか、形質によって差はありますが、「髪にくせがある」「お酒に強い」など子の容姿や体質が親に似てしまうのはみなさんもよくご存じのとおりでしょう。

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ただこうした形質ばかりでなく、性格的な部分も、子は親に似てしまうように見える例がしばしば観察されます。性格とは、遺伝的に決定されてしまうものなのでしょうか? それとも、親からの育てられ方や環境によって決まるものなのでしょうか?

米国のジェフリー・ランドリガンという犯罪者の例を見てみましょう。彼は1962年生まれですから、そう昔の人物というわけではありません。

ジェフリーは生まれてすぐに養子に出され、それなりに裕福な環境で育てられました。ジェフリーは、感情の制御ができず、すぐに癇癪を起こす子どもでした。

 

また、惑溺しやすい質でもあったようで、わずか10歳で酒びたりになってしまい、11歳になると強盗事件を起こして逮捕されました。その後は、薬物中毒になり、殺人を犯して収監されますが、脱獄してさらに殺人を犯し、再逮捕されてしまいます。

死刑囚として過ごしていたアリゾナで、同じく収監されていた囚人から、ジェフリーは「アーカンソーでお前とよく似た詐欺師に会ったよ」という奇妙な話を聞きます。外見ばかりでなく、言動もジェフリーによく似ていたというこの人物こそ、彼の実の父親だったのです。この人もまた、薬物の常習者で犯罪を重ねており、脱走歴もあったといいます。

さらには、そのまた父、つまりジェフリーにとっては祖父に当たる人物も、同じように強盗事件を起こし、ジェフリーの父の目の前で射殺されていたのです。