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メディア・マスコミ

魚住昭が「講談社秘史」を通して近代日本を描く理由

連載直前インタビュー
幕末・維新を経て、近代国家として歩みはじめた、日本。その時代はまた、日本に「巨大メディア企業」が誕生する黎明期でもあった。

日本社会のさまざまな場面で垣間見える、権力とメディアの応酬。そして、インターネットを中心に広がる、既成メディアへの不信。だが、そもそもこの日本で、一般大衆と向き合うメディアは、どのようにして生まれ、拡大してきたのだろうか。

メディア、権力、大衆、そして近代史の暗部――。知られざる歴史に光を当ててきたノンフィクションライターの魚住昭氏が、ウェブという場で挑戦する、まったく新しい近代メディア史、新連載『大衆は神である』。その開始を前に、著者・魚住氏に意気込みを語ってもらった。

目の前の出来事には必ず「背後の歴史」がある

――魚住さんが今回、スタートさせる連載『大衆は神である』は、明治にはじまり、戦中、戦後と日本社会の光と影の双方に深くかかわってきた、出版社・講談社の歴史を追う物語ですね。明日公開の第1回は、初代社長・野間清治と、彼を巡る人々を描くところからはじまります。なぜ、講談社、そして創業家・野間一族をテーマに選ばれたのでしょうか。

魚住: もともと私は、講談社の歴史を描きたいというより、「近代史をテーマに書いてみたい」という気持ちをずっと持っていたんですね。

私は通信社の記者出身で、生のニュースを取材することに醍醐味を感じて仕事をしてきました。タレコミを受けたり、朝駆けしてスクープを抜いたりと。しかし、物事には、それだけでは見えてこない「深層」がある。歴史の流れ、古いことを知らなければ分からないことがあるんです。

 

たとえば、いま話題の「モリカケ問題」(森友学園、加計学園グループにかかわる疑惑)もそうです。なぜ安倍昭恵総理夫人が、森友学園の名誉校長になったのか。籠池泰典・元理事長に肩入れしたのか。それは、思想的な背景を知らなければ、理解できないでしょう。

ここでは詳しくは述べませんが、一連の出来事の背景にあるのは、籠池氏の思想と密接に関係する保守団体・日本会議の歴史であり、その源流には宗教団体「生長の家」がある。では、生長の家の創始者・谷口雅春とは、どのような人物だったのか――。このように、結局は現在、目の前で起きている出来事であっても、実は戦前からの脈流を知らないと理解できないものは、数多くあるわけです。

日本会議の話はあくまで一例にすぎませんが、このように、現代を見つめるためにも近代史が重要であることは確かだと思っています。だからこそ、近代史を書きたいと考えてきたのですが、しかしながら、近代史一般については、それを研究している学者さんのほうが、当然ながら知識があるわけです。素人がおいそれと口を出すのはおこがましいでしょう。

どうしたものかと思いながら長年過ごしてきたのですが、1年ほど前、ある講談社の編集者と話をしていて、ふと、彼がこんなことを言ったんですね。「野間家の歴史は面白いですよ」と。

そこで、頭の中で計算をしたんです。物書きというのは、「このテーマなら、最悪どれくらいのものが書けるか」という歩留まりを、本能的に考えるところがあるんですね。講談社とはつきあいも長いので、頼めば何かしら材料を出してくるのではないか。これまでに公開されてない資料も手に入るかもしれない――。そんな基本文献があれば、自分なりに、いいものが書けるのではないかと考えたんです。

[写真]講談社五十年史のために集められた資料は現在、魚住氏の書斎にある書架を占領している講談社五十年史のために集められた資料は現在、魚住氏の書斎にある書架を占領している

佐藤卓己さんといったメディア史の専門家に、知識や教養で敵うはずがない。しかし、独自の資料があれば、ノンフィクションとして勝負できるのではないかと。