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サイボウズ社長「別姓訴訟」に内在する、深刻な戸籍の「二重氏問題」

「民法上の氏」と「呼称上の氏」とは
井戸 まさえ プロフィール

戦後「戸籍制度」改革の失策

「呼称上の氏」の概念が主張されるようになった時期はあきらかではないが、そう呼ぶかどうかは別として、直接に戸籍の変動を伴わない「氏」の変更は明治31年式戸籍にすでに現れている。

戦後の民法改正時に同時に行われた戸籍法改正は、従来の明治民法下での戸籍実務をできるかぎり変更しないようにという方針で進められ、実際、民法の専門家である山川一陽氏(日本大学名誉教授)によれば、現行戸籍法制定直後の1951年発行の『戸籍法』(青木義人著・日本評論社)にはその記述があり、明治以来現在まで一貫して戸籍実務を支配。二つの氏が共存する状態が現在に至るまで残存することになったと考えられる。

 

戦後の民法では、「戸主」のもとで三代戸籍は禁止され、「夫婦と子」のみの戸籍となったものの、非嫡出子や連れ子の問題は直視されていない。

また、氏を同籍者の基準としたことで、本来は民法が決定すべき氏の規律が、手続き法である戸籍法や戸籍実務に実質コントロールされるという矛盾を生む。

「そもそも家制度が廃止された以上、氏ごとの編成には、根本的に無理があることを認識しなければならない。最終的な解決は、個人別の戸籍にすることである。本来ならば、戦後の民法改正時に個人別の戸籍に改正されるべきであった」という法学者・水野紀子氏(東北大学大学院教授)の指摘はきわめて重要である。

戦後の改正を経て「家」という基準が失われたにもかかわらず「戸籍制度」には「氏」が残った。「氏」が「家」の代替であるか、そうでないか。そうでないならば戸籍実務はどう答えるべきなのか。

「氏」が個人の人格権であるなるならば、具体的にその権利をどう担保し、戸籍に反映していくのかといった論点が十分に検証されないまま、戦後の改正は行なわれたのである。

〔PHOTO〕iStock

この混乱が整理されないまま、1976年に民法767条2項として創設された「婚氏続称制度」はその苦し紛れの説明として「民法上の氏」と「呼称上の氏」という明治以来のレトリックを用いるようになる。

この「二重氏」という大きな問題を孕む立法は、法制審議会を通さないきわめて稀な政策決定過程を経て成立する。

この法をきっかけに、1984年には、国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律で外国人配偶者の氏に変更できるようになるなど、次々と「呼称上の氏」での新しい対応が生まれるが、結果として、民法と戸籍法が一貫性・妥当性を欠くこととなったのである。