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サイボウズ社長「別姓訴訟」に内在する、深刻な戸籍の「二重氏問題」

「民法上の氏」と「呼称上の氏」とは

サイボウズ青野慶久社長らの「別姓訴訟」に関して、ジャーナリスト・井戸まさえ氏が青野氏側の日本会議へのアプローチをスクープした記事は大きな話題となった(「サイボウズ青野社長の『別姓訴訟』、日本会議への接近に戸惑う人たち)。

青野氏らが要求する「夫婦別姓」が、「夫婦同姓」であり「通称使用の拡大」であることを指摘した同記事は、朝日新聞・論壇委員が選ぶ今月の3点(2018年4月、選者は森千香子・一橋大学大学院准教授)に選出された。

その後、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が本件について論点整理し、青野氏との論争が繰り広げられた。今回は戸籍制度が抱える「二重氏問題」を徹底解説する。

「世界に冠たる戸籍制度」のもろさ

このところの「戸籍」を巡る問題(無戸籍、夫婦別姓、眞子さま等皇族の非戸籍、二重国籍問題等)は、いずれも日本の国民登録制度である戸籍制度が抱える深刻な「バグ」を可視化し、「世界に冠たる戸籍制度」との認識の土台がいかに脆弱なものであるかを表すこととなった。

この「バグ」の存在は、民法学者や実際に実務で関わる戸籍窓口職員等の間ではたびたび問題が指摘されていたものの、最も影響を受ける国民に共有されることはなかった。

戸籍制度の複雑さと接触頻度の少なさは、日本の戸籍制度がいかに特異な制度であるかについて、「戸籍があるのが当たり前」となっている日本人自身が気づく機会を暗に奪ってきたと言えるだろう。

しかし今、前述の問題も含めて戸籍制度の揺れは、多くの人が体感できるレベルにまで大きくなってきている。

そのひとつは、「選択的夫婦別姓」の問題と付随して注目を浴びている「民法上の氏」と「呼称上の氏」が共存するという、いわゆる「二重氏問題」だ。

 

「民法上の氏」と「呼称上の氏」

「二重氏」と聞いても、にわかに理解できる人は少ないだろう。

実は私たちが通常使っている「氏」には「民法上の氏」と「呼称上の氏」と2種類ある。

まず、ここで、大抵の人は「ウソでしょ」となる。戸籍に書かれた「氏」が、個人を特定する上で公証された唯一無二の「氏」で、それ以外に「氏」があろうとは誰も思っていないのではないか。

しかし、現に「民法上の氏」と「呼称上の氏」が違う人は、少なからず存在する。本人たちの自覚もないままに。

たとえば、離婚した後、旧姓ではなく、婚姻中の氏を使う「婚氏続称」を選択した人々だ。

具体的に見てみよう。

佐藤花子さんが鈴木次郎さんと婚姻する際、「氏」を「鈴木」にすることを選択する。民法上、佐藤花子の「氏」は「鈴木」となる。

その後、離婚をすることとなる。その際、佐藤花子は父母の戸籍に戻るか、自らが筆頭者となる佐藤花子の戸籍を作るかの二択である。どちらを選んでも、民法上の氏は「佐藤」となる。

しかし花子は婚姻中に使用していた「鈴木」を使用したいために、離婚から3ヵ月以内に「婚氏続称」の手続きをとり、花子が筆頭者となった「鈴木」の戸籍を創成した。

ポイントはここである。戸籍上は「鈴木」と書かれるが、それはあくまで「呼称上の氏」。この場合は、民法上の氏は「佐藤」のまま。「鈴木」は法的担保がない、あくまで「通称」、呼び名だけの「氏」とされるのである。

こうして「婚氏続称」を選択した人は、実はふたつの氏、「二重氏」状態にあるのだ。

なぜ、こんなこんがらがったこと=「二重氏」の採用を「戸籍」はしてしまったのだろうか。