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マライア・キャリー「双極性障害」告白から見える精神医学の風景

「病気の売り込み」とは何か?
美馬 達哉 プロフィール

うつ病と双極性障害2型

うつ病でのうつ状態にも、多くの場合はアップダウンがあって、年がら年中ずっと気分が落ち込み続けるわけではなく、気分が良く普通に過ごせる日とそうでない日があることは知られている。

問題は、この「うつヌケ」がその人の健康な普通の状態に回復した姿なのか、普通よりも過剰にアップした軽躁状態なのかというところにある。

精神科の専門家であっても、前者のうつ病と、後者の双極性障害をしっかりと区別することは難しいといわれている。

普通に考えても区別は難しそうなところを、なぜわざわざ分類する必要があるのか。
精神医学での一般的な既成の説明としては、病気の違いによって治療が異なるからだ、となっている。それは次のような論理だ。

 

うつ病には抗うつ剤を治療に用いる。

双極性障害のうつ状態に抗うつ剤を使うと、うつから急に逆転して躁状態になってしまい社会的トラブルを引き起こすリスクがある。

昔から躁うつ病の患者さんが抗うつ剤を服用していると急に逆転した躁状態になって大騒ぎになることはよく知られていた。

だから、双極性障害を正確に診断して、抗うつ剤ではなく躁病に効果のある薬剤(気分安定剤:ムードスタビライザー)で治療して、感情が過剰にアップダウンすることを防ぐ必要がある。

そして、双極性障害に使われる気分安定剤は、抗うつ剤とは異なる抗精神病薬や抗てんかん薬なのである。

だが、このストーリーは果たして本当だろうか。

ブランドとしての双極性障害

精神疾患治療薬の専門家で歴史家でもあるデヴィッド・ヒーリー博士によれば、そこには薬の売り込みという利害関係がからんでいる可能性があるという(『双極性障害の時代 マニーからバイポーラーへ』)。

つまり、症状が比較的に軽くてアップダウンのあるうつ病の患者さん(いわゆる「新型うつ病」など)が、双極性障害であると診断され直せば、抗精神病薬や抗てんかん薬の売れ行きが上がるということだ。

そうでなくてもうつ病か双極性障害か判断がつかない場合には、躁病になってしまうリスクがあるなら、抗精神病薬や抗てんかん薬のほうが好ましいということになる。

これは、抗精神病薬や抗てんかん薬を販売している製薬企業にとっては魅力的な話だ。

ヒーリー博士は、感情のアップダウンに対して特異的に有効な治療薬が存在するという科学的根拠はかなり希薄で、感情のアップダウンを強調する双極性障害という診断名の流行が1990年代以降に起きた理由は、うつ病=抗うつ剤というイメージに対抗するための製薬企業のブランド戦略だったのではないかとの見立てを出している。

さらに言えば、躁病に対する治療薬であれば、要するに感情がアップになりすぎて興奮しているので、鎮静作用のある薬剤はなんでも多少は効果があるのではないかとも、指摘している。

また、最近の研究では、抗うつ剤によってうつ状態から躁状態にスイッチするリスクが高まるというのは、精神科医たちの都市伝説で、科学的根拠はないことが判明している。