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カット料金「1万2000円」でも若い男子が殺到する美容院の秘密

「髪型」を売らないから集客できる
不況著しい美容業界で一人勝ちしている美容院がある。創業4年で原宿に5店舗を構え、4月末には大阪心斎橋に6店舗目をオープンした「オーシャントーキョー(OCEAN TOKYO)」だ。代表2人のカット料金は1万2000円。相場の約4倍にもかかわらず、全国から客が殺到する。しかも、メイン顧客は「消費に消極的」といわれている高校生、大学生と社会人1、2年目の若い男性。
なぜ、この美容院はそれだけの高価格でも、若者を惹きつけるのか?
若手を動かせ』の著書もある、同店代表の中村トメ吉氏がその秘密を語る。

1万2000円で売るのは「髪型」ではない

あなたは、日本の美容院の平均カット料金はいくらかご存知ですか?

実は、全国の美容院の平均カット料金は3387円(厚生労働省調べ)。クーポンサイトの台頭で激しい値引き競争が繰り広げられ、日本のカット料金は先進国でも類を見ないほど低くなっています。

そんな中、僕たちの美容院は昨年、代表2人のカット料金を7000円から1万2000円まで引き上げました。

接客中の中村代表(筆者提供)

メイン顧客は可処分所得が低い学生と社会人1、2年目の若年層。加えて女性より客単価が低い男性客が9割以上なので、この価格改定は当初無謀だと言われました。

しかし、値上げ後も予約は常に数ヵ月待ちの状況が続いています。代表だけではなく、平均年齢23.8歳のメンバーたちも、他サロンの美容師の3倍から4倍の売り上げを上げています。

「なぜ、若い世代が高単価の美容院に殺到するのか」

最近、その理由を明かしてほしいという取材の依頼が多くなりました。噂を聞きつけた広告代理店や企業のマーケティング担当が、わざわざ美容院の予約を入れて、その秘訣を聞きに来てくれることもありますが、その答えは、たったひとつです。

それは、僕たちは「髪型」ではなく、スタッフの「経験と生き様」を売っているからです。

僕たちは、顧客が美容院で過ごす時間をめいっぱい使って、徹底的に彼らの悩みや夢に向き合っています。そして、その会話を通して「お客様の背中を押すこと」で、他の美容院と圧倒的に差別化してきました。

これは言いかえれば「オーシャンに行くと、心が動く。前向きになれる」という体験を顧客に提供していると言えます。

 

SNS世代が本当に手に入れたいもの

たったそれだけのことで、本当に若者が何度もリピートするのか? と思われるかもしれません。実際、電通の方にも、リクルートの方にもそう聞かれました。

けれども、これを不思議に思う人たちは、今の若者たちが育ってきた時代背景を理解できていません。

SNS世代と言われる今の10代後半から20代前半の若者たちは、生まれたときから「モノ」と「情報」にあふれた時代に育っています。

そんな彼らにとって、「モノ」や「情報」は、自腹を切ってまで手に入れたい価値ではありません。髪型もしかり、です。

では、そんな彼らが価値を感じるのはどんな瞬間か。それは、「自分の心が動かされた瞬間」です。

ですからオーシャンでは、「モノ」でも「情報」でもなく、お客様に対して「心が動く瞬間」を提供することを最も重要視しています。

「部活動や恋愛の悩みを相談することができた」
「誰にも言えなかった将来の夢について語ったら、心から応援してもらえた」
「入社したばかりの会社で感じた違和感について、一緒に真剣に考えてくれた」

お客様は、何度も店に足を運んでくれる理由をこのように語ってくれます。生身の人間同士のコミュニケーションそのものが、彼ら顧客にとっての価値になっていることがわかります。

意外と見落とされがちなポイントですが、就職前の若者が接する大人は、自分の両親や学校の先生、よくてもバイト先の先輩くらいです。そして、彼らが接する大人の多くは常識的な判断や安全な道を提示してきます。

そんな大人たちに対しては自分の夢を語れない若者たちも、信頼できる美容師には本音を語っていきます。

この関係性が築けると、来店動機が「髪が伸びたから切りに行く」ではなく「あの人にまた話を聞いてもらいたいから会いに行く」「背中を押してもらいたいから会いに行く」になります。

ここが、他店との圧倒的な差です。