メディア・マスコミ
「刑務所行き」の脅しにも屈せず
「CIA秘密収容所」をスクープした女性記者

「調査報道の雄」ワシントン・ポストVS.ホワイトハウス

 前回書いたように、調査報道に特化する新興ネットメディア「プロパブリカ」の女性記者シェリー・フィンクがピュリツァー賞シェリー・フィンクがピュリツァー賞を受賞し、一躍有名になった。では、伝統的メディアの間で「調査報道の雄」と言われるワシントン・ポスト紙のスター記者はだれか。

 安全保障問題担当の女性記者デイナ・プリーストだ。これまでに調査報道に基づく特報を何度もモノにしており、ピュリツァー賞を2度受賞している。マスコミ業界ではリストラの嵐が吹き荒れているが、彼女は「ジャーナリストという職業の魅力は少しも衰えていない」と強調する。

「国家機密を漏らせば、通常は刑務所行きになる。だが、合法的に国家機密を入手し、世間に公開できる業界が1つだけある。マスコミだ。この構図こそ最重要であり、リストラとは関係なくは今後も不変だ」

 1791年に世界で最初に言論の自由を権利として明確に保障した「アメリカ合衆国憲法修正第1条(ファースト・アメンドメント)」の存在がジャーナリストという職業を特別にしている――プリーストはこう言っているのだ。

 権力をチェックし、不正をただすことこそジャーナリストの使命と信じ、ワシントン・ポストで20年以上の記者経験を積んできたプリースト。彼女がどうやって権力と対峙しながらスクープをモノにするのか、再現してみよう。

ホワイトハウスからの「脅し」

 2005年10月のこと。ワシントン・ポストの編集局内は騒然としていた。権力の頂点から猛烈な圧力を受けていたからだ。

 最初は中央情報局(CIA)長官のポーター・ゴスからの抗議だった。

「記事は絶対に掲載してはならない。国名が明らかになったら取り返しがつかなくなる」

 次はホワイトハウスからの電話だった。

「ブッシュ大統領とチェイニー副大統領が会いたいと言っている。至急、ホワイトハウスへ来てほしい」

 発端はプリーストだった。「9・11」同時多発テロ以来、彼女は4年間かけて事実関係を丹念に積み上げ、いわゆる「ブラックサイト」の全貌をつかんでいたのだ。ブラックサイトとは、CIAが非合法に拉致したテロ容疑者を拘束するために世界各地に設置した秘密収容所のことだ。

 ワシントン・ポストがプリーストの記事を紙面に掲載しようとすると、CIAとホワイトハウスの逆鱗に触れたのだ。

 ワシントン・ポストの編集幹部はホワイトハウスへ出向き、怒りをあらわにしたブッシュ大統領らに面会。そこで「これは最高の国家機密だ。記事をそのまま掲載すれば、外交上の大問題になる。刑務所送りになってもいいのか」と脅された。

 最終決断する立場にあったのは、数々のピュリツァー賞をワシントン・ポストにもたらした名編集局長レオナード・ダウニーだった。編集局内でプリーストらと徹底議論したうえで、こう結論した。

「記事は掲載する。ただし条件付きだ。CIAに協力してテロ容疑者を拷問しているような国は、テロの標的にされかねない。だから、秘密収容所が設置してある東ヨーロッパ諸国の個別名は伏せておき、『東ヨーロッパにある』とぼかして書く。それでも反響は大きいだろうが、大丈夫だろう。政府はわれわれに介入できない。これは国益にかなった行為なのだから」

 つまり、「憲法修正第1条」が記事掲載の根拠になったのだ。この点では、安全保障問題に絡んで国の事前検閲を受けるイギリスや自己検閲を行うフランスなどヨーロッパ諸国のメディアと比べ、アメリカのメディアは強い立場にある。とはいっても万能ではない。

 プリーストは次のように説明する。

「アメリカ建国の父は立法、行政、司法の3権分立だけでは権力のチェックはおろそかになると考え、言論の自由を憲法で保障した。つまり、マスコミを『第4の権力』にしたわけだ。ただし、マスコミが必ずしも勝つとは限らない。国家機密の暴露で刑務所送りになる可能性もある。憲法によりどころがあるのはプラスだが、最後は政治決着だ」

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