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企業・経営

81年の歴史を辿って分かった「トヨタの強さ」の秘密

生きるか死ぬか、の戦いをしている

トヨタの強さの根幹は何なのか――。81年続く巨大企業の「オリジン」を辿り、『トヨタ物語』を著した野地秩嘉氏が、同社の「勝つための哲学」を明かす特別レポート。

技術革新とイノベーションは違う

1980年代、会社の寿命は30年とされていた(『日経ビジネス』調べ)。しかし、現在ではせいぜい10年、アメリカでは5年とも言われている。

「でも、長くやっている会社はたくさんあるじゃないか」

確かに、続いている会社はある。だが、そういう会社は業容が変化しているか、または同じ商品を扱ってはいても、イノベーションをくり返しているかのどちらかだ。もしくは続いてはいるけれど、成長の余地はなく、単に息をしているだけではないか。

トヨタは1937年の創業だから今年で81年目。製品は自動車だ。だが、業容は変化し、そして、イノベーションをくり返している。

 

戦前は陸軍向けのトラック生産が主な仕事だったし、敗戦後もトラック生産と在日米軍の車両修理をしていた。乗用車の生産が主流になったのはクラウンが誕生した1955年以降で、拡大したのはカローラが出て、モータリゼーションが始まった1966年からだ。つまり、官需の会社、トラック会社、そして、乗用車を作る会社へと変化している。その後も、ハイブリッドだったり、燃料電池車などの技術革新で絶えず新製品をマーケットに出している。

しかし、トヨタの強さの本質は技術革新ではない。イノベーションであり、イノベーティブな組織になっていることだ。その大本にあるのがトヨタ生産方式。現場でのカイゼンを追求し、必要なものを必要な時に必要な量だけ造る生産管理システムである。

世の中には技術革新とイノベーションを混同している人がいるけれど、両者はまったく違う。前者が発明だとしたら、後者は発見であり、価値の転換だ。

イノベーションの意味を説明するにあたって、例を挙げるとすれば、それはコンビニのおにぎりだ。どの店に行っても、いまや、おにぎりは、パリパリした海苔を巻いて食べるようになっている。しかし、海苔の食感が楽しめるようになったのは古くからのことではない。おにぎりの個別包装が始まった1978年以降だ。

江戸時代の元禄年間からその時まで、日本人は何の疑いもせず、海苔が巻いてあるおにぎりが当たり前だと思っていたのである。

ところが、イノベーションが起こった。

「個別包装になったら、最初から海苔を巻いておかなくていい。そうすればバリバリして、風味、香りを感じられるおにぎりを食べることができる」

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パリパリ海苔おにぎりは消費者の潜在的なニーズに応えたものだ。いわば潜在需要を顕在化したことであり、イノベーションの本質とはそれだ。

トヨタ生産方式が登場するまで、どこの工場でもフォード式大量生産が当たり前だった。流れ作業で同じ製品を大量に作る。プレス工場では車のボディを大量に打ち出す。塗装工場でも大量にペイントする。できあがったものは広大な倉庫に並べておく。ユニット部品、完成車が広大な敷地のなかにあふれていた。

しかし、ベンチャー企業だったトヨタにはそんな余裕はなかった。

そこで、トヨタの創業者・豊田喜一郎は「ジャスト・イン・タイム」というイノベーションを持ち込んだのである。原材料を工場に持ち込んだら、流れる川のような生産をする。中間在庫をなくし、完成車を置くヤードも最小限にする。リードタイムを限りなく短くすれば、クルマの代金をすぐに手にすることができる。貧乏なベンチャー経営者が思いついたイノベーションがトヨタ生産方式だった。

同方式を定着させるためには日々の「カイゼン」が要る。そのなかには新型ロボットの導入など技術革新の側面もあるけれど、カイゼンの主流は金をかけずに行う現場の知恵だ。トヨタの現場では作業者たちが毎日、思いついたカイゼンを実行し、そして、生産性を向上している。だから、強い。