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24年前に「北朝鮮の核実験」を予見していた軍事ジャーナリスト

南北首脳会談の前に必読の「架空戦記」

朝鮮半島情勢がザワつくと急遽執筆される

歴史的な南北首脳会談が開かれ、朝鮮半島に世界の耳目が集中している。半世紀以上も緊張が続いた朝鮮半島情勢も雪解けに向かうのか、という期待と不安が入り混じった視線が朝鮮半島に注がれているのである。朝鮮戦争休戦から今年で65年。その間、南北間では数限りない小競り合い、衝突、ゲリラ戦などが繰り返されてきた。

もちろん、一時的に緊張が緩和され、離散家族の再会、文化・スポーツ交流、南北による投資事業などが行われていた時期もあるのだが、それすらも北朝鮮の核・ミサイル開発によってほとんどが中断。そうした情勢が、今年の2月に開催された平昌オリンピックや今回の南北首脳会談、そしてこれから開催されるかもしれない米朝首脳会談によってようやくデタントに向かったことは周知のとおり。

中東やバルカン半島と並んで世界の火薬庫と目される朝鮮半島の情勢は日本にとっても大きな関心事である。昨年のミサイル発射とJアラートの警報は、北朝鮮に対する関心を大きく喚起させる出来事であった。

 

こうした情勢は、日本において、ある種の文学作品の創作活動につながってゆく。「ある種の文学作品」とは「架空戦記」というジャンルの小説のことである。「戦記」は実際に起こった戦乱を描いた文学作品であるが、「架空戦記」は実際には起こっていない、またはこれから起こるかもしれない架空の戦争を描いた文学作品である。その「戦争」の相手とは、アメリカ、中国、ロシア、北朝鮮であることが多い。

また自衛隊がタイムスリップして太平洋戦争に参戦するという内容の作品もよく書かれている。

昨年から今年にかけて『日朝開戦』、『朝鮮半島暴発』(いずれも電波社)という作品が出版されているが、どちらも北朝鮮が韓国や日本、アメリカと戦闘を繰り広げるという内容なのである。朝鮮半島の緊張に対する関心の高まりという「需要」に合わせて、急遽執筆されたものと思われる。

実は、朝鮮半島有事をネタとした「架空戦記」はむしろ90年代末に盛んに出版されていた。北朝鮮のミサイル開発と核開発によって緊張が高潮し、「需要」が生まれたためだと思われる。そんな「朝鮮半島架空戦記」の原型になった作品が、森詠(もりえい)の『日本朝鮮戦争』(徳間ノベルズ)である。96年に15巻で出版されたが、98年に11巻で再刊され、03年に上下巻で重刊されている。作者は1941年、東京生まれ。東京外国語大学卒、78年『黒い龍』でデビュー。95年『オサムの朝』で坪田譲治文学賞受賞をしている。

この作品では金正日が武力で韓国に侵攻、朝鮮半島をほぼ掌握し、韓国政府と韓国軍は済州島に退却。日米韓が主体になった国連軍が反撃して北朝鮮軍を打ち破り、金正日は中国に亡命。北朝鮮は崩壊せず、反金正日派によって統治される、と言う単純な内容。

スジが簡単なのに作品が長いのは、軍事的なウンチクと戦闘シーンの描写が多いためである。作者は軍事には詳しくても韓国の事情には疎かったらしく、小説中で登場人物が食うものといったら「プルコギ(朝鮮風すき焼き)」。しかも、「プルコギ」を網に乗せて焼いていたりする。

北朝鮮軍は対馬に侵攻し、日本の原発にミサイルが命中して放射能汚染で数万人が死ぬ。とにかく小説の全編にわたって戦闘で人が死にまくる。数千、数万どころではなく、数十万人単位で人が死んでいく。作品の末尾では「戦争は間違っている。戦争は無益なものだ! 戦争は罪悪だ! そう百万遍繰り返し非難しても、戦争は決してなくなりはしない」などと書かれている。まさに死は鴻毛のごとし。読んでいるうちに、まことにジメジメした気分になる。