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行政・自治体 週刊現代

実働10分で5万円稼げる天下り先「公証人」を知ってますか

廃止案に法務官僚が猛反発

毎日暇で年収2000万円

本誌記者が彼と会うとき、待ち合わせは夕方5時が指定される。東京都内のさる繁華街の駅前だ。

「まずは駆けつけ一杯。今日はどこ行こうか?」

――早い時間ですが、事務所は大丈夫ですか?

「初めから夕方の予約は入れてないんだよ。ま、いいよ、早く行こう!」

羽田正彦氏(仮名・60代後半)は、決して年金生活者ではない。年収は2000万円を優に超える。

目当ての店が開くまで、駅前の一杯飲み屋に入る。

「しかし毎日暇だな……今日は同じ新聞を3回読んでさ。おたくの週刊誌も隅から隅まで読んだけど、それでも時間が余っちゃったよ」

羽田氏は、63歳までエリート検察官だった。最高検幹部、某地方の検事正を務めて、定年退官。記者が彼と会うのは、かつて彼が担当した事件に関する取材が目的だが、それにしても暇そうだ。

羽田氏が悠々自適なのは、業界で「年寄株」と揶揄される天下りポストにありついているからだ。

現在、全国でわずか494人だけしかいないこのポストは、裁判官と検察官たちが、定年前からその枠の獲得に狂奔するほど「おいしい」ものだ。

彼の職業は公証人。全国300ヵ所の公証役場で、遺言作成などに関する公正証書を作成したり、会社の定款に公的認証を与える権限などを持つ。

給与はないが年間の手数料収入は、公証人1人あたり約3000万円。従業員の給与など維持費もそこから支払わねばならないが、客の多い地域の公証人なら年収2000万~3000万円はザラである。「天国」だと羽田氏が言う。

「司法書士や弁護士が整えてきた書類に対し、優秀な事務員がとりまとめを行う。俺の仕事は、それに目を通し、本人確認をすること。一日数件やれば十分おカネになる。

飛び込みはまずないし、日程の予約が入っても、面倒ならすべて後回しにして構わないんだ。ゴルフが入っていたら休む」

優雅な仕事だ。だが、誰もがなれるわけではない。法曹資格が必要で、公証人494人の9割以上が、裁判官、検察官、法務省職員の退職者だ。

「定年後を楽に暮らしたいというタイプがつきたがる。任命権者は法務大臣だが、人事は法務省民事局が実質的に握っているため、上の覚えがめでたくないと、絶対になれない」(公証人経験者)

 

70歳の定年はあるが、平均5年から長ければ10年はやれる。法曹資格があるのだから、その後は弁護士になる手もある。

優雅さのつけは、市民にまわされる。今年3月、母親の遺言証書の作成を考えた都内在住のA子さん(40代)は言う。

「勤務先近くの公証人役場に相談に行ったのは夕方4時のことでした。『今は不在だから』と横柄な事務員に断られたので、翌週に予約を頼んだら、『もう一杯です』『その日は公証人の都合が悪いですね』と。

結局予約がとれたのは2週間後。『嫌なら他に行って下さい』とまで言われました」

A子さんには知識がなかった。遺言証書は、通常なら原文を司法書士に作ってもらい、必要なら公証役場を訪ねるのが一般的だ。羽田氏が言う。

「遺言の公証は増えているんだが、そういう素人さんや高齢者が多いから、けっこう面倒なんだよ。来てもらっても出直しになることもあるし、手数料の効率が悪い」

その代わり、公証人が優先的にやりたがる仕事が、会社の定款に認証を与える「定款認証」だ。企業を設立するときには定款をつくり、必ず公証人と面談せねばならない。公証人は定型文に目を通すだけで、1回5万円もの手数料が得られる。

「定款のデータはCD-ROMで貰っているから、簡単な面談だけで、だいたい10分で終わります。一応30分の予約枠はとっていますが、本当に簡単な仕事だね」(羽田氏)

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