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「超実戦的」理系の英語力を飛躍的に高める秘策を伝授!

科学論文独自の"暗黙のルール"とは?

世界中の研究者を相手に、自身の重要な成果を英語論文にまとめて発表しなければならない理系人。そのためには「超実戦的」な英語力が不可欠だ! 10年超の在米中、大学教授として各国の留学生を指導し、自ら英語による書籍・論文を多数執筆してきた理系英語のエキスパートが明かす最強の学習法とは? 大学院博士課程1年目の若き理系人が、自ら論文を書きつつ体験レポートする。(文・木村桂大)

指導教員「近々、この国際会議に論文を投稿してみようか」

突然、降ってわいた英語論文執筆の機会! 喜びに高揚しながらも、誰しも最初は苦労しますよね。執筆にあたって、「何に気をつけるべきか」の見当もつかず、とりあえずは自分の知っている表現で書いてみたものの

指導教員「うーん……。これじゃあ、理系の文章になってないね」

と一蹴される始末。

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こんな経験がある方も、少なくないのではないでしょうか。

理系ならではの英語、理系ならではの文章って、なんだろう? 何に気をつけて書き進めればいいのだろう?

英語表現のテクニックについては、さまざまな教則本がありますが、理系英語の“根本的なルール”を学べる本は意外と少ないのが実状です。基礎的な文法書や科学論文用の構文集など、いろんな参考書を探していたら、面白そうな本に出会いました。『理系のための「実戦英語力」習得法』です。

 

著者の志村史夫さんはアメリカの大学で教授を務めていたこともあり、英語による書籍や論文の執筆、さらには有力誌の査読者としての経験もお持ちの方です。その豊富な実体験と知識を活かし、クスッと笑えたりドキッと驚いたりするさまざまなエピソードを交えながら、理系英語の要点を学べる楽しい1冊なのです。

この本では、理系の英語文章を書くうえで陥りやすいミスや、日本人が知らない“暗黙のルール”などについて、一つひとつ事例を挙げながら詳細に解説されています。執筆に際しての心構えや、誤用による自身の失敗談などを開陳しつつ、「なぜそのように書くことが必要なのか?」という根拠が理解できる構成になっています。

大学院生として年に数度は英語論文を書いている私にとっても、たくさんの学びがある本でした。この記事では、私の視点から見たこの本の魅力について、ちょっとだけ紹介しちゃいます!

理系英語に"味"は不要!

読み進めていくと、非常に勇気づけられる記述を発見!

それは「文系英語よりも理系英語のほうが執筆は簡単」ということです。朗報ですが、これはなぜでしょうか? 理系の文章を書くうえでの鉄則は、「シンプルに書くこと」。事実を淡々と書いていき、誤解を生まない文章にするのが理想です。具体的には、以下のようなポイントが挙げられています。

  1. 論理が明快であること
  2. 文意が一義的である(誤解の余地がない)こと
  3. 専門用語以外は日常用語を用い、なるべく短い文で構成されていること
  4. 事実と推測、自分の意見と他人(一般)の意見が明確に区別されていること

 (本文より)

簡潔で、なおかつ誰が読んでも同じ意味が伝わることが理系文章の条件です。日常会話の英語は「ユーモア」に溢れた表現が好まれますが、理系文章で笑いをとっているひまはありません(笑)。例として、科学ニュース記事の書き出しを1つ読んでみましょう。

Certain skin-dwelling microbes may be anticancer superheroes, reining in uncontrolled cell growth. ーScienceNews https://www.sciencenews.org/article/human-skin-bacteria-have-cancer-fighting-powers?mode=topic&context=49 より

いかにも淡々と発見について述べている、という印象の文ですね。一方で、文系の文章はどうでしょうか? 例としてコナン・ドイルの代表作「シャーロック・ホームズシリーズ」における冒頭文を見てみましょう。

"It can’t hurt now," was Mr. Sherlock Holmes’s comment when, for the tenth time in as many years, I asked his leave to reveal the following narrative. ーシャーロック・ホームズの事件簿 高名な依頼人 より抜粋

いかがでしょうか。

いきなり「It can’t hurt now (もう大丈夫だ)」と意味深な始まりです。ミステリー小説ですから、読み手に状況を「考えさせる」ことで没入感を与えています。これぞ小説の“味”であり、娯楽としてつくられた文章特有のものといえるでしょう。

他方、理系英語は読んで楽しむためのものではありません。事実を論理的に、正確に書いていけばそれでよいのです。表現のセンスが命である文系英語と比べると、多少はラクそうだと思いませんか?