格闘技

ゴロフキンの魔法は本当に解けてしまったのか

ミドル級の帝王が無名挑戦者と戦う理由

負わなかったリスク

試合挙行予定日から3週間を切ったところで、ミドル級の帝王ゴロフキンの次戦の対戦相手がようやく決まった。

カリフォルニアのリングで、通称“GGG”はスーパーウェルター級のコンテンダー、マーティロスヤンの挑戦を受ける。階級も実績も違う両者の対戦を、“ミスマッチ”と批判するファンは少なくない。

アルメニア生まれのマーティロスヤンは2004年アテネ大会のオリンピアンだが、プロでは無冠。デメトリアス・アンドレイド(アメリカ)、エリスランディ・ララ(キューバ)、ジャーモール・チャーロ(アメリカ)といったスーパーウェルター級のトップ選手には勝てなかった。ミドル級での実績は皆無な上に、もう約2年もリングから遠ざかっている。

自前のルールを厳しく守るIBFは、この試合をタイトル戦として認めない方向という。IBF指名挑戦者セルゲイ・デレビャンチェンコ(ウクライナ)との対戦には興味を示さず、結果としてゴロフキンは保持してきた3つのメジャータイトルのうちの1つを剥奪される危険にも晒されている。

マーティロスヤン戦の発表直後、アメリカ進出以降ではほとんど初めて、ゴロフキンは対戦者選びでファンから少なからず批判を浴びることになった。デレビャンチェンコ、アンドレイドといった好選手が代役挑戦に名乗りを上げていたにも関わらず、容易な道を選んだように見えたからだ。
 

(カネロの禁止薬物陽性反応で多くのことが変わった Photo By Tom Hogan-Hoganphotos/Golden Boy Promotions)

ただ、筆者個人の意見を言えば、今回は仕方ないのではないかと考えている。ボクシング界のお祭りであるはずのシンコ・デ・マヨ(メキシコの祝日)に用意されたサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)戦は、カネロの禁止薬物陽性反応発覚で結局はキャンセル。その後に会場をラスベガスからカリフォルニアに変更し、新たな対戦相手探しを余儀なくされた。言ってみれば、ゴロフキンはこの件では完全に“被害者”であることを忘れるべきではない。

 

集中力が一度途切れた後で、しかも新イベントへの準備期間が短いのであれば、代役に難敵を選ばなかったのは理解できる。“だったらキャンセルすればいいのでは?”と思うかもしれないが、トレーニングキャンプに費やした時間、エネルギー、経費を完全に無駄にしたくないと考えるのも自然なこと。ボクサーは試合をしなければもちろん報酬はもらえないのだ。
 
それらの事情を考慮すれば、ここで負ける可能性の低い“調整試合”を選んだことは許容範囲内。この一戦後、さらに稼げるビッグマネー・ファイトが控えているのであればなおさらだろう。

組み直されるリマッチ

ゴロフキン対マーティロスヤン戦が発表された直後、ネバダ州コミッション(NSAC)からカネロに対して6カ月の出場停止処分が通告された。

事前に喧伝された“公聴会(Public Hearing)”とは名ばかりで、結局はこの日の会合にはカネロもGBP役員も欠席。一部で予想されたように、ドーピング陽性反応に関する詳細が掘り下げられることはなかった。NSAC、カネロの両方が大きく損をしない形でまとめられた感もあり、釈然としない思いは残る。
 

(何らかのアクシンデントがなければ、9月のメキシコ独立記念日週末にリマッチが仕切り直しされることは確実だ Photo By Tom Hogan-Hoganphotos/Golden Boy Promotions)

ともあれ、処分の期間が1年から半減されたことで、カネロはメキシコ独立記念日の9月には復帰が可能になった。ゴロフキン対カネロのリマッチはほぼ間違いなくここで組み直し。ゴロフキン陣営も、NSACの裁定、その後のシナリオをもちろん事前に知らされていたに違いない。

今後、ゴロフキンは再びのビッグイベントに照準を合わせて動き始める。1年のブランク明けで大一番は賢明ではなく、やはり5月に一戦は挟みたい。ただ、急ごしらえの試合で故障を負うか、ダメージを残せばカネロ戦が吹き飛びかねないだけに、トップファイターと対戦するのはやはり危険ではある。

豊富なアマキャリアを持つデレビャンチェンコへの評価は高く、それでいて西海岸での知名度はほぼゼロ。例えベルトを1本失うかもしれなくとも、1000万ドル以上を稼げることが確実なイベントの前哨戦に、“ハイリスク・ローリターン”の典型のようなタフガイが起用されるはずもなかった。そんな状況で選ばれたのが、1階級下であるがゆえに危険は少なく、同時にカリフォルニアに多少のファンベースを持つマーティロスヤンだったのだ。

このような流れに納得した上で、それでも“タイトルよりも金を優先”というゴロフキンの動きを残念に感じるファンは少なくないのだろう。

石井慧と村田諒太、五輪金メダリストの「その後」を考える
スポーツコミュニケーションズ,近藤隆夫