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国家・民族

謎に満ちた「天皇即位式」昔はいまよりずっとゆるかった

庶民でも気軽に見物できたらしい

今よりもずっと「ゆるい」

天皇即位式といえば、誰もが厳正な儀式を思い浮かべるのではないか。現代では庶民が即位式を直接見物することはまずあり得ない。実際、平成の即位式でもその様子を人々が知るのはテレビ映像を通してだった。

だから、近世以前の即位式も現代と同じ形式だったと思い込んでしまうのも仕方のないことだ。研究者の間でさえ「そもそも近世以前は、庶民は天皇の即位式があること自体知らなかったのだ」とする見方が一般的であった。

しかし、実際のところ近世以前は、即位式は公開することが基本中の基本だったのである。即位式は、いままさに即位せんとする天皇の権威を「見せつける」行事だった。

1630年に即位した明正天皇の即位式を描いた「御即位行幸図屏風」を見ると、京都御所の南庭に大勢の庶民が押し寄せ、即位式を見物している。

公家たちは一様に同じような格好をし、おしなべてのっぺりとした顔つきで描かれているのに対して、見物する民は老若男女とりまぜ、活気に満ちた表情である。緊張の様子はうかがえず、中にはくつろいで子どもに授乳している女性までいる。

いたずらで会場に設置された幢をゆらしている子どももいるが、母親や周りの大人がとがめる様子もない。

 

1763年の後桜町天皇の即位式に参加した公家の日記によると、おびただしい見物客の喧噪で、進行状況はよくわからず、静粛を促す先払いの声すらもかき消されるほどだったという。

公家たちもずいぶんいい加減だったようで、欠席したり遅刻したりしている。近世の即位式は私たちが思っている以上にフランクだったようだ。

また即位式は庶民が宮廷文化に触れるまたとない機会だった。異国風と見紛う装束類に、公家たちの一風変わったしぐさは見物人の興味をひいたに違いない。事実、即位式は歌舞伎の演目でも取り上げられ、その衣装等にも影響を与えている。

天皇即位式は近世以前の庶民にとって一種の遊楽だったのだ。(羽)

『週刊現代』2018年4月28日号より