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忘れられない「あるゲイの死」もしカミングアウトされたときは…?

一橋大学事件から何が変わったのか
ゲイを公表する文化人類学者の砂川秀樹さん。新刊『カミングアウト』を書くときにどうしても書き残しておきたいと思っていた話があったという。3年前のあの事件から、私たちは、この社会は、どのように変わったのだろうか。

忘れられないあるゲイの死

一橋大学のロースクールに通うゲイの大学院生Aさんが、同性の同級生Zさんに好意を持っていることを告白したのは、2015年のちょうど今頃、4月のことだった。

春とともに新学期を迎え、大学のキャンパスが新入生の初々しい表情で華やぐ中、どんな思いでAさんは告白し、返事の言葉を受けとっただろうか。

その事件を取材した記事によると、告白された同級生は、その気持ちには応えられないがこれまでと同じように友人でいようと答えたという。

その断りの言葉は、もちろん何も問題ではない。

私も、教えている大学などで、「自分は同性は好きにはならないけど、同性の友人から告白された、どうしたらいいでしょうか」という相談を何度か受けたことある。

答えは簡単だ。

自分が付き合う対象とならない異性に告白されたのと同じように返答すればいいだけのことだ。

 

Aさんも、返事そのものによって精神的に参ったという報告はない。

むしろきっと、これは想像にすぎないが、好意を寄せる相手に、自分がゲイであることを伝えられて、でも、これからも同じような友人関係でいられるということは嬉しかった思いすらあったのではないだろうか。

だからこそ、その言葉とは裏腹となるZさんの行動はAさんを深く傷つけてしまったのではないか。

その告白から2ヵ月半ほどして、Zさんは、Aさんや他の友人で構成されるLINEのグループで、突然、「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん。」と書き込んでしまったのだ。

そのときには、Aさんは、気丈にふるまい、「たとえそうだとしても何がある?笑」と返答した。だが、それをきっかけとして、Aさんはパニック発作が起きるようになり、心療内科にも通い、Zさんと顔を合わせる授業や試験にも出られなくなってしまった。

Aさんは、一橋大学のハラスメント相談室にも行くのだが、そこでは、「性同一性障害」を専門とするクリニックの受診を勧められたという。

同性愛と「性同一性障害」は別の事柄だ。自分のことが理解されていないと感じたであろう彼の気持ちを考えるとやるせない。

そして、その年の8月24日、彼は亡くなってしまう。彼が大学の校舎の6階ベランダ部分に手をかけぶら下がっているのを発見した人がおり、救助を呼んだものの間に合わず、転落死してしまったのだった。

この事件が広く知られるようになったのは、Aさんのご家族が裁判を起こし、そのことがネットニュースで詳細に報じられたからだ。それ以来、「アウティング」という言葉もよく耳にするようになった。

アウティングとは、誰かの性的指向や性自認を、本人の許可なく誰かにばらすことをいう(性的指向とは、どの性別に惹かれるかということであり、最近私はその意味がはっきりするように「指向性別」と言ったりするようにしているが、ここでは定着している性的指向を用いる)。