画/おおさわゆう
医療・健康・食

私が見た「腕はいいんだがクセがすごすぎる天才外科医たち」

覆面ドクターのないしょ話 第13回
4月22日から医療ドラマ『ブラックペアン』(毎週日曜日21時−21時54分/TBS系)がスタートする。主演の二宮和也が演じるのは、一匹狼の天才外科医・渡海征司郎。天才的な技術を持つが昇進を断り続ける変わり者で「オペ室の悪魔」と呼ばれている。他にも、病院に君臨する「神の手を持つ」教授(内野聖陽)、新技術を開発した「ビッグマウス」と呼ばれる新進外科医(小泉孝太郎)など、一癖も二癖もある外科医が登場するが、次郎先生の周辺にも相当変わった外科医たちがいたようで……。

悪臭さえ我慢できれば…

医療ドラマにはしばしば孤高の天才外科医が登場する。つき合いにくそうな孤独を好むタイプが多いが、人間的には魅力ある人たちばかりだ。

では、現実の医療現場ではどうか。確かに天才外科医は存在する。だが、魅力的というよりは、相当な奇人変人が多い気がする。

そこで、今回は、私の周りにいた変人外科医をかいつまんで御紹介いたします。

 

【ドクター・オイニー】

ある日のこと。誰もいない外来ブースに行くと、異様なにおいがした。

「この部屋、何か臭くない?」
「あっ、さっきまでドクター・オイニーがいました」

そうだ、と思い出したように、看護師さんが慌しく消臭剤を噴霧した。

かつて私の勤務した病院に、ドクター・オイニーと呼ばれた医者がいた。

「におい」をもじった異名の通り、臭い外科医だった。フケだらけのボサボサ頭に、くしゃくしゃの手術着を着て、裸足にサンダル履きのまま、いつもお腹をポリポリ掻いていた。彼は三年寝太郎のようにめったに風呂に入らず、その体からは、ワキガと足の臭さが混り合った複雑なアロマが漂っていた。

病院には投書箱があり、1階入り口付近に利用者からの投書が張り出される。苦情のワースト1位はドクター・オイニーに関するものだった。

「あの先生の足、絶対水虫です!」
「サンダル禁止にしてください!」
「病院でお風呂に入れてあげて!」

どんなにおいかはあまり想像したくない(photo by istock)

ドクター・オイニーは苦情ワースト1位だったにもかかわらず、一部の患者さんに根強い人気があった。

なぜなら、ドクター・オイニーは外科医としての腕が抜群だったからである。手先が器用で、ミルクレープをハサミで1枚1枚生地を傷つけずに剥がすことができた。また、高野豆腐のようにプリンの周囲に糸を巻き、プリンを傷つけずに糸を縛ることができた。

においを我慢できる一部の患者さんだけが、彼の高度な医療の恩恵に浴することができたのである。

あるとき、彼が珍しく出席した宴会で、私は彼の隣の席に座ることになってしまった。

宴会場に入り指定された席に近づくと、なにやらツーンとくるにおいが漂っていた。それまで彼の半径1メートル以内に近づいたことはなかったが、覚悟を決め、席についた。

「うっ……」

覚悟をしたはずが、においは、即刻席を立って逃げ出したくなるほどのきつさだった。必死にしかめっ面にならないように努め、浅く浅く口呼吸を続ける。

彼はコミュニケーションが苦手で、めったに人と口をきかなかった。だが、実は鉄っちゃん(鉄道マニア)で、反対の席の同僚と電車の話をしていた私に興味をもったらしい。何か話しかけようとしてモジモジしていた。近づいてほしくなかったのだが、複雑なアロマが私の体を徐々に覆い始めていた。浅い呼吸を繰り返すのも限界に達し、だんだん息苦しくなってくる。

長い沈黙の末、彼がすーっと私の方に体を寄せてきた。そして、投げかけた言葉は……?

「さ、佐々木先生……ひ、秘境駅の定義って言えますか?」

呆然とした私は、大きく鼻から息を吸ってしまい、鼻腔への強い刺激で一瞬気を失いそうになってしまった。

これが、私の身近にいた孤高の天才外科医の現実の姿でした。

では、もう少しまともな変人外科医を御紹介します。