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AI 働き方改革 上司 部下

人工知能が人類から「思いもよらないもの」を奪ってしまう可能性

脳科学者が本気で伝える危機感

1983年にコンピューター・メーカーに就職し、「人工知能(AI)」開発の草分けとして活躍してきた黒川伊保子さん。脳のメカニズムを熟知し、人間とAIの差を熟知しているからこそ説得力をもって語れる具体的な「脳科学」は、そのエビデンスの数と信頼性、そしてユーモアから多くの人に支持されている。

黒川さんはロングセラー『英雄の書』に、より大人に向けて加筆修正した『英雄の書 ―すべての失敗は脳を成長させる―』を上梓したばかり。この本にはAIが成長している現代、我々人類が人類として脳を育てるためにどうしたらいいのかが描かれている。そこで今回は黒川さんに、人類がAIによって奪われてしまうものは何か、そして奪われないためにはどうすればいいのかに的を絞り、特別に書きおろしてもらった。

執事AIの登場

先日、とあるカンファレンスのパネルディスカッションに、パネラーとして参加させていただいた。テーマは、「AIとIOTが拓く近未来を考える」。

その冒頭に、オーストラリアの男性アーティストが作ったという「AI(人工知能)と暮らす近未来」を描いたイメージ画像が流された。主催企業がイメージをする近未来を体現したものだという。

そのドラマは、昏睡状態に陥った男性が10年後に目覚めた、というストーリー。AIと共に暮らす近未来に、いきなりタイムスリップしてしまったかのような感覚を描くショートムービーだ。

パネルディスカッションの冒頭に流されたのは、その一部である。60代前半と思しき主人公の男性が、長いこと昏睡状態の自分を見守ってきてくれた娘への感謝を伝えたくて、共に暮らすAIに「花屋に電話をしてくれ」と言うのだが、AIにたしなめられる。曰く、「女性がサプライズを喜ぶ可能性は75%以上ですが、彼女が花束を好まない可能性は90%です」

花束をもらっても喜ばない確率90%。その「確率」は、そのときの感情や人間関係も含めているのだろうか…Photo by iStock

しかも、彼女には何か男性がらみのトラウマがあって、花束は彼女に悲しい思いをさせる…ということまで、このAIは匂わせるのである。「プライバシーの問題があって、詳細は話せない」のだそうだが。

主人公の男性が花を贈るのを諦めてがっかりしていると、AIは「あ、こんな写真を見つけました」と、何十年も前に、幼い娘と写ったビーチの写真を出してくる。男性は満面の笑みで「では、航空会社に電話してくれたまえ」と言い、AIが「このビーチに誘うのですね。いい選択です」なんて言って、このドラマは終わるのである。

 

女ごころの読み間違い

私自身は、思わず「うざい」と唸ってしまった。だって、英国ミステリー小説に登場する執事のようなこのAI、「男性目線の自己満足」の体現のようだったから。そもそも40がらみの女性が、70がらみの父親と7歳の時の思い出をなぞって、何が嬉しいのだろう。自分が7歳の息子と同じ海岸で遊びつつ、自身の幼き日の幸福をふと思うのなら別だけど。その時だって、年老いた父親が傍にいないほうが「幸福」は想起しやすい。たとえ、大好きな父でも。

私に言わせれば、この場合、せめて「ペア旅行券」をプレゼントすべきだ。娘が、愛する人とその海岸で寄り添ったとき、その安寧の中で、若き日の父親の幻影をちらりと見る。それくらいのほうが、父と娘の絆は美しくよみがえる。

人生に対する、余計なお世話

それは、AIが最も行ってはいけない道である。しかも、このAI、女ごころを読み間違っている。