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保育士の夢を諦めかけた貧困女生徒を救った、あるプロジェクト

県立「再チャレンジ高校」の物語——②
生きることもままならない…困難な境遇にある子どもたちを支援し続ける、県立高校がある。ノンフィクション作家・黒川祥子氏による『県立! 再チャレンジ高校 生徒が人生をやり直せる学校』より、生徒たちを支える教職員たちの奮闘の一部を紹介する。

「生き辛い子どもたち」——高齢化・人口減少の進む現代、これらの子どもたちへの対応は、日本全体が最優先で取り組まなくてはならない大問題である。

学業はおろか、家庭で社会的スキルや対人関係を学ぶ機会さえ持たない子どもたちを、正規労働に就かせ、最終的に納税者としてカウントさせるにはどうするべきか。

本記事に登場するのは、「保育士」として働きたいと願う女子生徒たちだ。家庭の貧困を理由に夢を諦めかける彼女たちに希望を与えるきっかけとなったのは、市の青少年局の協力によって生まれた、あるプロジェクトだった——。

※ 生徒(卒業生)、教員、学校名、地名は原則として仮名とした。

保育士になりたいけど……

「先生、私、保育士さんにすごくお世話になったの。大事にされたの。だから、そういうところで働きたい」

女子生徒たちからあがる、そんな声になんとか応えられないか──思い悩んだ担任の川上文彦は支援を申し出てくれている、市のこども青少年局を訪ねてみることにした。青少年育成課の係長と話をしていた時、隣の席にいたのがたまたま保育課の係長だった。

「保育士になりたいと強い意志を持つ子が数人、うちにいるのですが、家庭が専門学校や短大へ行くお金の用意ができないんです。保育課という専門の立場として、どう思われますか?」

返ってきたのは、驚くべき答えだった。

「実は高卒で唯一、保育士の国家資格に挑戦できる方法があるんですよ。2年間以上かつ2880時間以上の実務経験を積むと、保育士の国家試験の受験資格が得られるという制度があります」

えええー! そんなこと、まったく知らなかった。たしかに以前は高卒でも国家試験を受けることができたが、ある時期から不可能になった。だから頭から高卒では無理だと思い込んでいた。そんな方法があったんだ!

話はとんとん拍子に進む。青少年局はこう提案してくれた。

「市として、槙尾高の卒業生のために用意できる職場は、市立の認可保育園です」

「え? うちの子たちに職場を用意していただけるのですか?」

「保育課と合意ができています。川上先生、うちの認可保育園と連携しましょう。ここで2年間、フルタイムで働けば、軽く2880時間を超えますから、受験資格を得ることができますよ」

ひと月あたり平均で120時間。労働条件も抜群にいい。待遇は市のアルバイト職員の規定が適用されるので、有給休暇10日間、交通費全額支給、おまけに共済年金にも加入できるという。

川上には信じられない思いだった。

「彼女たちは卒業すれば、稼がないといけない。家にお金を入れないといけないし、自分のためにもお金は要る。専門学校に行くお金がない子たちにとって、これはものすごくいいプログラムじゃないか。やってみる価値はあるし、ダメだったら撤退すればいい」

 

夏休みに5日間のインターンシップを行い、双方にとっての見極めを行う。生徒本人にしてみれば初めて体験する保育園という職場だ。

実際に働いてみて、自分が本当にできるかどうかの確認を行うと同時に、保育園側もスタッフとして受け入れてもいいかどうかを見る。お互いに問題がなければ、槙尾の卒業生が4月から保育園で保育士見習いとして働くことになる。

川上は急展開への驚きを隠せずにいた。まさか、うちの子たちが4月から、「先生」と呼ばれるようになるとは……。信じられない。この子たち、本当に先生になってしまうの?なれるの?

こうして生まれたのが、槙尾高の「保育プロジェクト」だった。スタートを切ったのはこの年の3年生、再チャレンジスクール1期生だ。