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シリア内戦は「アメリカの攻撃」でむしろ悪化したかもしれない

当事者の市民は置き去りにされたままだ
末近 浩太 プロフィール

ロシアの動きに「一定の」歯止めをかける

そうしたなかでの今回の軍事行動である。そこには、こうしたジレンマを抱えた米国が事態打開の手立てを模索する姿が見てとれる。

すなわち、ロシアに対して政治的な攻勢を仕掛けながらも、軍事的な衝突は回避し、シリア「内戦」への影響力を示す手立てである。

今回の軍事行動が昨年4月のそれと異なるのは、ロシアへの政治的な攻勢が強められた点である。

トランプ大統領は、化学兵器を使用したとされるアサド政権だけでなく、それを支援するロシアに対しても激しい非難の言葉を浴びせた。

加えて、英仏両国を抱き込むことで、国際社会でのロシア、そして、イランの政治的な孤立をもたらす効果を生み出した。

その一方で、昨年4月の軍事行動がほぼ完全な奇襲だったのに対して、今回は作戦発動までに数日を費やすことで、結果的にロシア軍に時間的な猶予を与えた事実は重要である。

そう考えると、「準備しておけ、ロシア。素晴らしく新しく「賢い」それら(ミサイル)は必ずやってくる!」(4月11日)というトランプ大統領によるツイートは、ロシア軍に迎撃ではなく退避を呼びかけるメッセージであったものと読むことができる。

〔PHOTO〕gettyimages

化学兵器使用事件の「利用価値」

結局のところ、米国は、シリア「内戦」をロシアの手に委ねなくてはならない状況に変わりはなく、したがって、シリアをめぐってロシアと真正面から衝突する意思は有していない。

少なくとも、ロシアとアサド政権に代わって自国が「内戦」を一手に引き受けようなどとは考えていない。

事実、今回の軍事行動の約2週間前の3月29日には、トランプ大統領は、シリアから米軍は「間もなく」撤退すると述べている。

 

その後「もう少し」だけ駐留するとの翻意を見せたものの、いずれにしても、米国がシリアに特段の関心を持っていないことは明らかであった。

もし仮に米国が人道や民主化の観点からシリア人の命を何よりも重視していたならば、過去のどのタイミングでも介入できたはずである。死傷者の数という点で見れば、化学兵器よりも通常兵器の方が問題は深刻である。

にもかかわらず、米国が化学兵器使用にこだわった理由は、それが国連安保理決議や国際条約に違反することから軍事行動の正当性を得やすいことに加えて、ロシアに対する政治的な攻勢を強め、国際社会での地位を揺さぶる上での「利用価値」が高かったためだろう。

「化学兵器を使用するアサド政権を擁護するロシア」というかたちで化学兵器とロシアを紐付けすることで、批判の度合いを強めることできるからである。

むろん、誰が、何の目的で、化学兵器を使用したのか、証拠や十分な情報が提示されていない現段階(4月14日)においてそれを断じることはできない。

だが、いずれにしても、4月7日に化学兵器使用が報じられたことは、米国が対シリア政策、あるいは対ロシア政策を打ち出す上での1つのきっかけとなった。

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