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トランプが直視できない「最先端産業で中国に負ける日」

それは、間もなくやってくるのだが

ドナルド・トランプ米大統領は、3月22日、 500億ドル相当の中国製品に対して25%の高率関税を課す措置を表明した。また、23日には鉄鋼とアルミ製品の輸入制限措置を発動した。4月4日には制裁関税の原案を発表し、中国はこれへの報復関税を発表した。

これが米中貿易戦争に発展するのではないかとの懸念が広がっている。そのため、株価は乱高下を繰り返している。

しかし、以下に述べるように、トランプの対中関税はまったく合理性を欠いている。したがって、米中の貿易戦争がこのままエスカレートするとは考えにくい。

実際、中国の習近平国家主席は、4月10日、ボアオ・アジアフォーラムで演説し、中国経済の開放をさらに進め、自動車を含む一部製品の輸入関税を年内に引き下げる方針を表明した。これは、アメリカとの貿易摩擦の鎮静化を図ったものとみられている。

アメリカが本当に恐れるべきは、中国の特殊な社会構造が、ビッグデータの利用やAI(人工知能)の開発に有利に働いており、その結果、最先端分野で、中国がアメリカを抜くことだ。

 

トランプはアメリカ経済を弱くする

トランプ大統領は大統領選挙戦のときから、「アメリカに製造業を戻す」と言っていた。

確かにアメリカの製造業は衰退した。ただし、それは最近起こったことではなく、1980年代に始まったことだ。

しかも、その原因は中国からの輸入ではなく、主として日本からの鉄鋼、自動車、半導体などの輸入である。

しかし、90年代になってからは、アメリカは中国の工業化を巧みに利用して自らの産業構造を変えた。

製造業も、製造過程を中国などに委託し、自らは研究や製品開発など付加価値の高い部分に特化するという世界的水平分業を実現したのである。

それによって、アメリカの経済は強くなった。

現在のアメリカ経済は、GAFAと呼ばれる新しい企業群(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に象徴される高度知識産業を中心にして成長しており、世界最強の経済産業構造を持っている。(拙著『産業革命以前の未来へ―ビジネスモデルの大転換が始まる』NHK出版新書、参照)

トランプのアナクロニズム

トランプ政策は、 国際協調に背を向けたアメリカ第一主義だと言われる。しかし、そうではない。アメリカを1980年代に引き戻そうとするアナクロニズムなのである。これは、アメリカ経済をかえって弱めるものだ。

輸入に高関税をかけるのは、国内の産業を輸入から保護しようとするからであろう。

しかしアメリカの場合、上記のように産業構造が転換してしまったため、高関税をかけても輸入量を大幅に減らすことはできず、国内の物価が上昇してしまうだけの結果になる。

それで困るのは、アメリカの消費者やメーカーだ。したがって、トランプの対中関税に対しては、すでに反対が起こっている。

他方、中国は、報復措置としてアメリカの農産物に高関税をかけるとしている。これによって困るのは、アメリカの農家だ。したがって、農家からすでに反対の声が上がっている。

このように、トランプの政策は、政治的に見ても合理性を欠いている。今回の政策は中間選挙のためだと言われるが、果たして票を増やすことにつながるのかどうかは、大いに疑問だ。

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